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訪問看護の未来

連載コラム4:未来志向の訪問看護②~オランダの訪問看護~ビュートゾルフ~

■チームが主体となるビュートゾルフの取り組み

前回のコラムに引き続き、昨年9月に訪れたオランダ大使館での催しでも話題になった先進的な在宅ケア組織「ビュートゾルフ」について触れていきたい。

前回はビュートゾルフの生まれた背景とフラットで自立したチームが織りなす特徴について述べたが、今回はその具体的な取り組みを追ってみよう。

さて、ビュートゾルフ・チームの利用者に対する取り組みとしては、定期的なチームミーティングがある。頻度はチームによって異なるが、1週間に1回くらいのペースで設けているチームが多いようだ。メンバーはその場で「利用者とこんな会話をしたよ」とか「この前はこういうケアをしたけど、どう思う?」といった情報共有や振り返り、また、今後の方針や各看護師の役割・責任の確認などを行う。また、ケアの質向上に向けた学習や、地域活動に関する年間計画も立てる。こうした運営はもちろん、メンバーが役割を分担し、チーム単位で行う。

■チームの活動を支える先進的なICT

ビュートゾルフを語る上ではICTの活用の話も欠かすことができない。

ICT活用の例としては、地域ナースの意見を反映させて開発した「ビュートゾルフ・ウェブ」という独自の多機能システムがある。利用者情報、シフト管理、文書の共有といった「業務管理機能」や、理念の共有、事例やイノベーションなどナースのナレッジについて共有・議論するための「コミュニティ機能」が主な機能である。

ビュートゾルフではすべての看護師にiPadを支給しており、スタッフはいつどこにいても「ビュートゾルフ・ウェブ」のシステムにログインすることが可能、申し送りもiPadで行う(図3)。こうした徹底的なICTの活用もビュートゾルフの大きな強みとなっている。201603_4_01.png

また、各チームのメンバーによる日常的な記録に基づいて、自分が所属するチームのケア提供状況をいつでもチェックできる仕組みがある。これが「チームコンパス」である。

このチームコンパスによって、それぞれのチームがビュートゾルフの全チームとの比較を、たとえば以下のような項目について行うことができる。利用者数、利用者の属性(疾患の種類、症状、退院直後、ターミナルなど)、利用者に対するケア提供時間、利用者1人あたりの平均看護師数、総労働時間におけるケア提供時間の割合、ケアの財源、ケア後の利用者満足度、チームの諸機能の遂行状況に至るまで比較できるのだ。

そして、ケアの質管理を行うICTが「オマハシステム」である。オマハシステムはアウトカムモニタリングの手法で、1970年代に米国オマハの訪問看護協会が開発した、全人的見地からみた地域看護活動の標準分類方法である。

オマハシステムでは利用者だけでなく家族やコミュニティも含めた看護診断、介入分類、アウトカム評定からなる体系である。ビュートゾルフでは、ケアマネジメントのサイクルで活用しやすく、さらに全人的ということもあってオマハシステムを採用するに至ったという。

現在はすべてのチームがオマハシステムを活用していて、アウトカムをモニタリングすることで実践の向上に役立てている。問題・介入・成果に関する数万人分のデータをもとに、患者団体と協力体制を築きながら、アウトカムに関する知見を共有している。

■他のセクターまでが応用したがる運営モデル

さて、先述したようにビュートゾルフは分業をせずチームがトータルなケアを行っている。分業しないメリットは、チームとして包括的な支援を行うことだけではない。分業を導入して細切れのケアを行えば、それだけ多くのスタッフが必要になり、さらにスタッフ間の連携の手間もかかる。つまり、分業せずにチームでケアを行うことは、コストの削減にも大きな貢献となるのだ。

たとえばビュートゾルフにおける間接費の割合は7%で、他の在宅ケア組織での平均である25%よりずっと少ない。その結果、より多くの資金をケアとイノベーションに回すことができる。また、利益率は5%で、これもイノベーションや教育費に回している。さらに職員満足度も高く、病欠率4%とこれも他の在宅ケア組織での平均7%に比べて低い。表にビュートゾルフの時間当たりの収支構造を示した。201603_4_02.png

このようにコスト削減にも優れたビュートゾルフモデルがオランダ全土に浸透したならば、在宅ケアにかかるコストは現状の7割程度に削減できるともいう。

ビュートゾルフモデルの波及が期待されているのはコスト削減だけではない。その高い顧客満足度・従業員満足度へのアプローチが、オランダ政府をして他のケア組織への応用を検討させるに至っているという。

実際に多数のナースが伝統的な在宅ケア組織を辞めてビュートゾルフにやってくる。そのワケに注目しているのは在宅ケア組織だけにとどまらない。他のセクター、たとえば警察、学校などにもビュートゾルフモデルが応用可能という。

看護師がビュートゾルフを評価するのは以下の点である。「小規模チームで働く」、「自立的に働く」、「独立性強いチームスピリット」、「使いやすいICT」などがそうだ。これらの要素すべてに他の専門職の多いセクターにも応用できるのではという期待が持たれている。

■ビュートゾルフは日本で応用できるのか?

オランダのビュートゾルフについて振り返ってみた。さて翻って、ビュートゾルフの日本への応用可能性はどうだろう?日本の訪問看護の現場で、管理者のいない現場を想像することはできるだろうか?

日本ではほとんどの看護師が病院や診療所で働いている。このため日本の看護師はトップダウンで指示が降ってくる環境に馴染んでしまい、主体的に、自立的に動くことにまず慣れていない。また日本の介護保険制度では、ケアマネージャーのケアプランに沿って動かなければならず、医療についても医師の指示書に従って動かなければならないことが自立への足枷となっている。

ただ、これに関しては日本でも昨年の6月に国会で成立した医療介護一括法の中で看護師の「特定行為」が認められ、その研修も始まっている。「特定行為」は医師との包括的指示のもとに看護師の裁量で38行為21区分の特定行為ができるという制度である。これらの特定行為には在宅ケアに活用できるものも多い。

こうした時代の変化に沿って、看護師の主体的な判断と責任を日本の看護師がどう自覚していくかについても考えてみる必要がある 。そして、現状の細切れな在宅ケアをチームによるトータルケアを実践する仕組みへと変えて、看護師が主体性を発揮できる「日本版ビュートゾルフ」のような環境ができれば、日本の看護師も、オランダのように大きなやりがいを持って、在宅で働くことができるかもしれない。そしてそれが現状の病院中心の看護のあり方を、在宅ケアへとシフトさせる原動力になるかもしれない。

そんな未来志向の訪問看護の在りかたを考えながら私はオランダ大使館を後にした。

参考文献 Jos de Blok Buurtzorg :Better care for Lower cost December 2010 上記キーワード検索による閲覧日 2015年10月