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訪問看護の未来

連載コラム5:訪問看護ステーションから地域総合ケアステーションへ① ~米国、そして日本の大規模化の現状~

米国の在宅医療の中核を担う巨大訪問看護ステーション

著者は若いころ、米国のニューヨーク市ブルックリンで2年ほど病院留学をしていたことがある。この時、現地の巨大な訪問看護ステーションを見学した。

ニューヨークにはニューヨーク訪問看護サービス(VNSNY:Visiting Nursing Service of New York)という、大規模な訪問看護ステーションがある。

VNSNYは設立130年の歴史を持つステーションで、1日の訪問件数は3万1000件、1年間で、のべ11万人以上の患者さんに対し、220万回の訪問を行う巨大ステーションだ。

VNSNYの職員数は、総勢1万7200人。そのうち、看護師が2500人おり、看護師以外にもホームヘルスエイドと呼ばれる介護士が6000人、さらにリハビリ職員7000人、ソーシャルワーカー1600人、栄養士100人等の多職種を抱えている。

そして、現在のVNSNYでは、看護師さんが全員タブレット端末を持ち歩き、膨大な職員数であっても情報(事例、資料等)のICT共有をしっかりと行っている。このようにニューヨークでは大規模化した訪問看護ステーションが、在宅医療の中核を担って活躍している。

小規模で局所的な不足が深刻な日本の訪問看護ステーション

では、わが国はどうだろうか?これから高齢化が進む東京を中心とした首都圏では、後述するように訪問看護ステーションの不足が著しい。ニューヨークの巨大訪問看護ステーションとまではいかなくても、やはり大規模の訪問看護ステーションが必須だ。

今回は訪問看護ステーションの大規模化、多機能化、高機能化について見ていこう。

さて、わが国の訪問看護ステーションの現状を見ていこう。厚生労働省の調べによると2016年度現在、訪問看護ステーション数は全国7092か所である。この軒数は、2014年診療報酬改定で訪問看護ステーションに診療報酬上の追い風が吹いて以来、少し伸びてはいる。

しかし、一方で医療機関併設型の訪問看護ステーションは相変わらず減少の一途をたどっている。医療機関併設型の訪問看護ステーションは2002年には3874箇所あったが、2014年には半減して1687箇所までに減少している。この理由の一つは2006年からスタートした7対1入院基本料の影響にあるだろう。この影響で病棟へと引き戻された医療機関併設型訪問看護ステーション配属の訪問看護師は少なくない(図1)。

図1201604_5_01.pngのサムネイル画像

地域包括ケアシステムの構築には訪問看護ステーションを増やすことが不可欠だが、医療機関併設型の訪問看護ステーションが減り続けるのは痛い。医療機関に併設して病床を利用できる医療機関併設型の訪問看護ステーションの意義をもう一度、問い直し、その復活を考えて見てはどうかと思う。

数の次は規模を見てみよう。独立型の現在の訪問看護ステーションの規模を見ると5人未満の訪問看護センターが6割と小規模事業所が圧倒的に多い(図2)。

図2201604_5_02.png

小規模であることが訪問看護の24時間対応もままならなくしている。給与も引き上げられず、病院看護師から比べると月額2~2.5万円の給与差が生まれ人材が集まらない。請求作業の負荷も大きい。訪問看護の請求事務は診療報酬と介護報酬がモザイクのように入り混じった煩雑なものであり、作業に時間を取られるなどマネジメント上の問題も抱えている。

さらに訪問看護ステーションの都道府県別の格差も問題だ。これから特に高齢化の進む首都圏における訪問看護ステーションの人口当たりの数が、その他の地域、とくに西日本に比べて著しく少ないのだ(図3)。

図3201604_5_03.png

こうした中、2014年診療報酬改定で国は5人ないし7人以上の看護師を配置した規模の大きい訪問看護ステーションを機能強化型訪問看護ステーションとして評価することになった。訪問看護ステーションの大規模化は後述するように、その経営の効率化、サービスの質向上には必須だ。このため今回の報酬改訂により新設された機能強化型訪問看護ステーションの増加が今後期待されている(図4)。

図4201604_5_04.png

赤字訪問看護ステーションを統合して大規模化

さて、訪問看護ステーションの大規模化や効率化について具体的な方法を考えてみよう。その一つが小規模の訪問看護ステーションの統合だ。わが国における訪問看護ステーションの統合事例をご紹介したい。

平成20年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業の調査研究から「訪問看護事業の機能集約および基盤強化促進に関する調査研究事業」(川村佐和子、聖隷クリストファー大学大学院)の中間報告で発表されたケースから見ていこう。

本ケースの舞台となるA市(人口約80万人,高齢化率21.5%)は人口約25 万人、世帯数10 万世帯が居住する中核都市である。このA市のA社会福祉法人は、市内に7か所の訪問看護ステーションを経営していたが、7か所中2か所のA訪問看護ステーションとB訪問看護ステーションについては赤字経営が続いており、その地域で利用者の伸びが見込めないことから、この2つの訪問看護ステーションを継続して経営していくことは困難であると判断した。

特にB訪問看護ステーションがある地域では、狭い地域に3つの訪問看護ステーションが競合しており,新規利用者の獲得が難しい状況だった。一方、A 訪問看護ステーションは、在宅ターミナルや、頸椎損傷、難病等の医療依存度が高い利用者が増えていたが、職員数が不足し、夜間の携帯当番回数が多いなど、職員の負担が大きいことが問題なっていた。

そこで、B訪問看護ステーションの一部とA看護ステーションを統合して、大規模訪問看護ステーションを設立することにした。

訪問看護ステーション統合・大規模化による変化と効果

その後、統合された大規模訪問看護ステーションはどうなったのか?統合前後の変化やその効果を見ていこう。

看護職員常勤換算数は、統合前は計13.0人であったが、統合後は11.1人になっている。PT・OTは統合により、2.0人が2.8人となり、事務職員は統合前が計1.4人から,統合後は0.9人になった。利用者数は、介護保険利用者は130人と変わりはないが、医療保険利用者は統合前の2事業所合計45人から50人に増えて計180人となり、統合前と比較すると増加している。

統合前は新規利用者などをお断りしなければならない場面もあったものが、統合後は新規利用者を断ることもなくなり、複数回訪問のニーズにも応えられるようになった。さらに、がん・小児・終末期の利用者などに対する専門的な知識や技術をもつスタッフが増加し、全体の看護の質が向上したことで、訪問可能な利用者の幅が広がり、こうした利用者への訪問が増加した。

経営状況は、統合前と比較して統合後は事業収益が増加し、とくに事業費用は一事業所分の賃貸料の経費の削減等により大きく減少している。このため収支は統合前の合計で1か月238万円の赤字であったものが、統合後には1か月143万円のプラスに転じている(図5)。

図5201604_5_05.png

スタッフの負担も減少した。緊急時の携帯当番は、職員数の増加によって、1人あたりの回数が統合前は最大10回だったものが2~5回に減少した。看護職員の増加によって当番だけでなく職員の急な病気等による休みへの対応も可能になった。

このように訪問看護ステーションの統合による規模拡大は、経営上でのメリットや、サービスの質向上、スタッフの負担軽減など、様々な効果を生み出した。

とは言え、訪問看護ステーションがさらに数や規模を充実させていくには各事業所の努力だけでは十分とは言えない。次回はわが国の訪問看護ステーションを取り巻く様々な支援体制についてご紹介したい。

参考文献
川村佐和子ら 平成20年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業の調査研究「訪問看護事業の機能集約および基盤強化促進に関する調査研究事業」
畑吉節末氏ら、「在宅医療におけるポイント・オブ・ケア・テスティングの現状と有用性の検討」在宅医療助成一般公募報告書2009年