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訪問看護の未来

連載コラム8:英国の認知症国家戦略と看護師の活躍(後編)

■前回のおさらい・英国認知症施策5つの目標

前回からは、英国における認知症国家戦略をその5つの目標を順に追いながら解説している。前回は5つのうちの、②、③総合病院およびケアホームにおける認知症ケアの改善まで解説した。今回の本題に移る前に、5つの目標がどのようなものだったかをおさらいしてみよう。

  • ①早期の診断・支援のための体制整備
  • ②総合病院における認知症対応の改善
  • ③介護施設における認知症対応の改善
  • ④ケアラー支援の強化
  • ⑤抗精神病薬処方の制限

今回も、こうした英国の認知症国家戦略の中で、地域の看護師がどのような役割を担っているかに注目しながら読み進めてほしい。

■ケアラー支援

では、前回に引き続き、④のケアラー支援の強化について見ていこう。

英国では1995年ケアラー法が制定された。ケアラー法では、認知症の人の家族介護者(ケアラー)も支援を受ける権利を有する、地方自治体はケアラーの困難をアセスメントする義務を有するといった規定がなされている。

ケアラー法に基づく支援の中身は、家族介護者への適切な情報の提供、家族自身が抱える困難についてのアセスメント、家族自身の健康問題のアセスメント、レスパイトケアの提供などである。

このケアラー支援の実態を見るため、ロンドンの北東部サットン区にある「サットン区ケアラーセンター」を訪問した。サットン区ケアラーセンターでは、地域のメンタルヘルスチームとも協力して、認知症ケアラーのためのレスパイト、カウンセリング、心理セラピー、電話やメールのサービスを実施していた。また地域のNHSトラストなどと共同で「認知症の人を抱えるケアラーのためのマニュアル」を作成し、積極的に認知症家族に対応した支援を行っていた(図3)。

図3201605_6_03.png

わが国でも介護離職が年間8000人を超えている。これから団塊世代の高齢化に伴って、団塊ジュニア達の介護負担が増える。このため安倍首相もその経済政策「新3本の矢」の中で「介護離職ゼロ」を謳っている。働く人を家族介護による離職から守ることも経済政策にとって欠かせないという観点からである。この政策を後押しするためにも、英国で実績のあるケアラー法をわが国でも制定してその権利擁護や支援策強化を行ってはどうか?

■アドミラルナース

またサットン区の自治体ではケアラー支援のために「アドミラルナース(Admiral nurses )」を雇い入れて成果を挙げたという。

アドミラルナースとは、在宅で認知症の本人と家族が暮らすことを支援し、諸サービスをつなぐコーディネーションする専門トレーニングを受けた専門看護師のことである。アドミラルとは「提督」という意味で、この名称の由来は、ヨットを趣味にしていて「アドミラル・ジョー」とニックネームで呼ばれていた一人の認知症の男性を記念して命名されたという。

はじめてのアドミラルナースが活動を始めたのは、1990年にウエストミンスターでのことだった。現在は126名が、メモリーサービス、在宅チーム、ケアホーム、病院、終末期ケア、NPO団体、電話相談などで活躍中であるという。

このアドミラルナースを養成している民間団体の「ディメンシアUK」財団を訪ねてロンドンへと足を運んだ(図4)。同財団では、近々このアドミラルナースを200名に増やそうとしている。ディメンテイアUK財団の年間200万ポンドの活動費は、その75%が国のNHSから、残りは企業等の寄付によって賄われているという。

図4201605_6_04.png

アドミラルナースの特性は、日本の訪問看護分野や認知症看護分野の認定看護師と比べてみても異なる。日本の認定看護師は、実務としての高度な看護技術を有し、それを自分の所属する組織に持ち帰って他の看護師に指導する使命を帯びているが、アドミラルナースには指導の側面は薄く、さらに実務もさることながらコーディネーターとしての役割が大きい。

日本においても訪問看護のアセスメントプロトコールを指導するケアーズのような民間団体があるが、今後は認知症の対応に関する指導を行う団体の出現も必要なのかもしれない。

最後に、④抗精神病薬の処方の制限について見ていこう。

認知症の人への抗精神病薬使用により死亡率が高まることが研究によって明らかになった。このためリスクの低い薬に限定して処方する方針が出され、抗精神病薬の処方率が2006年の17.5%から2011年の6.8%まで低下したという。

■認知症施策のアウトカム評価

さて、イギリスでは上記で見てきたような認知症国家戦略の最終年となる2014年に、無作為に選ばれたサービスユーザーやケアラーに対して、「認知症の人の視点に立った」9項目の質問票を使って、サービス改革の達成(アウトカム)がどの程度達成されたかを確認する作業が行われたという。最後にその質問項目を見ていこう。

  • アウトカム1 「私は、早期に認知症の診断を受けた」
  • アウトカム2 「私は、認知症について理解し、それにより将来についての決断の機会を得た」
  • アウトカム3 「私の認知症、ならびに私の人生にとって最良の治療と支援を受けられている」
  • アウトカム4 「私の周囲の人々、特にケアをしてくれている家族が十分なサポートを受けられている」
  • アウトカム5 「私は、尊厳と敬意を持って扱われている」
  • アウトカム6 「私は、私自身を助ける術と周囲の誰がどのような支援をしてくれるかを知っている」
  • アウトカム7 「私は人生を楽しんでいる」
  • アウトカム8 「私は、コミュニテイの一員であると感じる」
  • アウトカム9 「私には、周囲の人々に尊重してもらいたい自分の余生のあり方があり、それが叶えられると感じられている」。
■日本のオレンジプランと訪問看護への期待

日本のオレンジプランに少なからず影響を与えた英国の認知症国家戦略を、私自身が昨夏、直接ロンドンを訪れた体験談をもとにお話しした。認知症診断率の測定や、ケアラー法による認知症ケアラー支援、アドミラルナースの活躍などを見てきた。

わが国でも2025年に訪れる認知症700万人時代を目前に、認知症施策推進総合戦略である新オレンジプランが2015年からスタートしている。英国の事例で見るように、地域における関係者の連携が、今まで以上に重要になるだろう。

そして、その中における訪問看護師の役割は大きく、認知症患者の早期発見や患者支援、家族支援などさまざまな取り組みが期待される。

繰り返しとなるが、連携を進める上では、サービスの品質、患者の状況把握、そして看護師のスキルにおいて、さらに明確な基準や標準化が求められる。アセスメントプロトコールやサービスレベルアグリーメントによる基準の設定と統一が今後さらに進むだろう。

昨年のロンドンツアーは、こうした日本の訪問看護ステーションの看護師の活動にも活かせそうなヒントに満ちた小旅行だった。