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訪問看護の未来

連載コラム9:看護師の特定行為研修と訪問看護師(前編)

■はじめに

2015年10月、「特定行為に係る看護師の研修制度」がスタートした。それに先立ち同年4月1日からは指定研修機関の指定申請が始まり、研修開始に向け準備が進められている。先行した機関では10月から研修を開始している。

今回はこの特定行為に係わる看護師の研修制度の背景と訪問看護師のかかわりについて見ていこう。

まずはこうした制度の背景にある「スキルミクス(Skill-Mix)」という概念について触れておく。

このスキルミクスはもともと、看護職の「職種混合」から発した概念だ。しかし、この概念が今や時代の要請によって大きく拡張され、異なった職種間の役割の補完・代替関係を指すだけでなく、広くは異なった職種間の権限委譲や、新たな職能の新設などを指し示す概念に発展している。

実は今回の特定行為に係わる看護師の研修制度はこのスキルミクスの考え方と大いに関係がある。そして訪問看護師にとってこの特定行為研修がその職域を大きく広げる画期的な制度となる可能性がある。これらを踏まえて読み進めてみてほしい。

■スキルミクスとは?

冒頭で簡単に説明した「スキルミクス」だが、それは具体的にどのようなものなのか?それを知るために、まずスキルミクスの歴史を振り返ってみよう。スキルミクスは日本語では「職種混合」、「多職種協同」と訳されている。訳の通りもともとは看護職の職種混合から発した概念だ。看護チームは正看護師、准看護師、看護助手というように、資格、能力、経験、年齢などが異なるスタッフの混合配置からなる。この看護の職種混合の議論からスキルミクスの概念が生まれた。

その背景には1990年代の先進各国における看護師不足がある。

たとえばカナダでは1993年の医療費削減政策の結果、看護師が大量にリストラにあって、正看護師が一時解雇やパートタイムへの移行を余儀なくされたことがあった。そのときに起こったのが、本当に必要な正看護師は何名なのか、また費用対効果のある最適な看護スキルミクスとは何かなどの議論だった。

こうした背景でスタートした看護スキルミクスは、その後、様々な研究がなされていく。ある研究では、正看護師の比率が高いほどケアの質はあがる一方、正看護師、准看護師、看護助手などの様々な看護職を高度にスキルミクスさせた施設のほうがケアの標準化が進むという指摘もなされた(文献1)。

さて、もともとはこうした看護の職種混合の議論から生まれたスキルミクスの概念ではあるが、最近では、それが拡張されて、異なる職種間、たとえば医師と看護師チームの中でそれぞれの役割の補完・代替関係を指したり、広くは異なる職種チームにおける職種混合のあり方や職種間の権限委譲や、新たな職能の新設などを指し示す概念に発展したりしている。

この広義のスキルミクスの概念の研究もまた、医師不足や看護師不足が動機だった。

先進各国とも医療技術の高度化と人口高齢化によって医師、看護師の需要が急増する一方で人材供給の不足に悩んでいた。というのも、特に医師はその養成と維持に莫大なコストと時間がかかる、いわゆる「ハイコスト・ワーカー」であり、そうそう簡単には増やせない。

そこで1990年代の欧米先進各国が研究を進めていったのがスキルミクスだった。医師と看護師間のスキルミクを始めとして、多職種チーム内におけるスキルミクスについて様々な研究が進むことになった(文献2)。

こうした議論の中で医師と看護師のスキルミクスでは、医師の仕事の一部を看護師が代替することで、医師の人件費をはじめとする医療コストを抑え、そして医療の質の向上という二兎を追う手法として、その実践が先進各国の共通のトレンドとなってきている。

■ナース・プラクティショナー

医師と看護師のスキルミクスの結果、新たに生まれた職種がある。次はそんな看護師の新職種「ナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner : NP)」の生い立ちと現状を、米国に探ってみよう。

米国のNPはそれまで医師が行ってきた検査オーダーや処方の一部の権限を医師から委譲されて新たにできた職種である。

さて米国のNPの歴史は1965年に遡る。最初、NPは医師が行きたがらない僻地での医療提供を目的に、コロラド大学においてその養成が始められた。その後、実績を重ね、現在では小児、ウィメンズヘルス(女性の健康)、高齢者、精神、急性期の5つの領域をはじめとして救急、家族、新生児などの領域にその活躍の舞台を広げている。

その業務範囲も、予防的ケアやプライマリーケア分野、急性期及び慢性期の患者の健康管理、健康教育、相談・助言など多岐に渡っており、州によっては限定された薬の処方や検査の指示を出す権限もNPに認められている。

NPの具体的な業務としては、患者のフィジカルアセスメントを行い、正常所見と異常所見の判別を行う。そして急性期の感染や外傷患者、慢性期の糖尿病や高血圧患者に対して、医師とあらかじめ協議した業務手順(プロトコール)に基づいて、NPは診断に必要な臨床検査やレントゲン検査の指示を出し、その結果を分析し、必要な薬剤の処方や処置の指示を出すこともする。また患者がセルフケア能力を高めるように健康教育やカウンセリングも行う。

こうしたNPが行う診断行為の一部や、限定的であるとはいえ薬の処方、検査オーダーなどは、本来はすべて医師の業務だったものだ。当然、NPの誕生当初は、米国の医師会から大反対の声があがった。NPが医師の職権を奪うことになるからだ。

しかし、1985年に米国連邦議会技術評価局によって行われた「ナース・プラクティショナー、医師アシスタント、助産看護婦の政策分析」という報告書の中で、以下のようにNPに対して積極的な評価がなされたこともあり、しだいにNPは米国医療界に受け入れられていく。

報告書では「NPのケアの質は医師と同等であり、特に患者とのコミュニケーション、継続的な患者の管理は医師よりも優れている」、「過疎地住民、ナーシング・ホーム在院者、貧困者など医療を受ける機会に恵まれない人々にNPは有効である」としている。

こうした世論の支持もあって、現在の米国におけるNPは、看護師人口の約5%、14万人以上へと資格者を伸ばし、病院・診療所の外来や、ナーシング・ホーム、地方の無医地区の診療の場で活躍している。

さて私事ではあるが、著者は1980年代の後半に、ブルックリンにあるニューヨーク州立大学の家庭医療学科に留学していた。そのとき家庭医療科の外来でNPと一緒に働いたことがある。このときのNPの印象は日本でもよくいる「しっかりした看護主任さん」のイメージで、家庭医療科の外来には欠かせない医師のパートナーだったことを覚えている。

ちなみに前出の報告書のタイトルで名前の挙がった医師アシスタントとも一緒に働いた。医師アシスタントはベトナム戦争の終結時、大量に帰還した衛生兵の受け皿として作られた新職種で、医師の助手として簡単な縫合処置や検査助手のような診療の手助けをしてくれる職種で、日常の臨床の中で大変助かった記憶がある。

■日本の現状

さて、我が国でも医師と看護師のスキルミクスは、病院医療の現場ではすでに実態として行われている。この実態調査が以下のように行われた。

「看護の質の向上と確保に関する検討会」(座長 慶応大学大学院田中滋教授2009年3月中間報告、文献3)の中で当時、検討会委員の一人だった坂本すが氏(現日本看護協会会長)は、看護師のさまざまな病院現場での活躍ぶりを報告した。

報告では①公立病院の救急外来、②国立大学法人の特定機能病院のがん化学療法外来、③学校法人立病院の緩和ケア、④企業立病院のICU、⑤社会保険関連団体の病院の糖尿病外来の看護師業務の実例があげられた。

①の救急外来については、院内教育を受けた看護師が患者トリアージを事前に決められた手順に基づいて行い、大きな成果をあげている。②のがん化学療法外来については、教育を受けた看護師が、医師の薬剤レジュメンに基づいて、抗がん剤投与のための静脈穿刺、化学療法実施中の全身管理と副作用予測、抗がん剤の血管外漏出時の応急処置などを行っている。③の緩和ケアについては、教育を受けた看護師が、医師の薬剤処方に基づいて、オピオイド投与時の服薬指導、疼痛増強時の臨時追加薬投与、疼痛評価と投与量の評価、副作用緩和のための薬剤投与の予測などを行っている。④のICUについては、院内教育を受けた看護師が、医師による薬剤処方および包括的指示に基づいて、薬剤投与の必要性を予測、人工呼吸器の設置などを行っている。⑤の糖尿病外来については、教育を受けた看護師が、医師の薬剤処方および包括的指示に基づいて、インスリンの単位調節、インスリンの種類の予測と調整などを行っているーなど様々な例が報告された。このように病院医療の最前線ではすでに医師と看護師の間のスキルミクスは実態として進行している。

このように現場ではすでに進行している医師、看護師のスキルミクスであるが、今後はさらに発展、定着させていく必要がある。そのために以下の検討が必要ということになった。

まず、どの領域でどのような行為についてスキルミクスを行うかを明確にしなくてはならない。そして行為の内容について医師との業務手順(プロトコール)を定め、そして医師の包括指示のありかたについても明確にすることが必要だ。さらにそのために看護師の教育研修をどのように行うのか、そしてそれをどのように評価するかを明確にしなくてはならない。そしてスキルミクスの安全性、有効性の評価も必要だ。そして最終的にはそれを法律事項として定める必要もある。

■特定行為

ここまでに述べたように、先進各国で潮流となっているスキルミクスの概念を背景として、また、国内の病院医療の現場で進んでいた現状を踏まえて議論を重ねた結果、我が国の「特定行為に係る看護師の研修制度」は誕生した。

これまで医師に集中していた医療行為の権限の一部を、領域を限定した上で、その領域における医療行為について事前に明確な手順書(プロトコール)を定め、医師の包括的指示のもと、看護師の手に委ねていくというものだ。

では「特定行為に係る看護師の研修制度」がどのように誕生したか、その検討の経緯を見ていこう。

厚生労働省の「チーム医療推進会議」(座長:永井良三・自治医科大学学長、文献4)は、2013年3月に、3年にわたる長い議論の末、看護師が行う難易度の高い診療の補助行為を「特定行為」として法に定めて、それを行うための研修制度の創設を盛り込んだ報告書をまとめた(文献3)。

報告書では「特定行為」について「実践的な理解力、思考力および判断力を要し、かつ高度な専門知識および技能を持って行う必要のある行為」と定義した上で、保助看法でそれを明確化し、具体的な特定行為については省令で定めるとした。

さてこうした経緯を経て、本制度は2014年6月に成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」の中の保健師助産師看護師法(保助看法)の改正の中で定められ、詳細は特定行為研修省令として発出された。そしてその実施は2017年10月1日からとなった。これがまさに、医師と看護師のスキルミクスが我が国においてスタートした瞬間であった。

このように、海外先進諸国で誕生した医師と看護師とのスキルミクス、そしてそれがわが国で看護師の特定行為研修として結実するまでを追った。
次回は、こうした特定行為研修が実際どのように行われていくのか、どのようなスキルを持った看護師が輩出されていくのかを、訪問看護師を例に見ていくとしよう。

参考文献
文献1 David Hailey, Christa Harstall Nursing Skill Mix and Health Care Outcomes Alberta Heritage Foundation for Medical Research Health Technology Assessment December 2001
文献2 James Buchan1 & Mario R. Dal Poz2 Skill mix in the health care workforce: reviewing the evidence Bulletin of the World Health Organization 2002, 80 (7) 
文献3 厚生労働省「看護の質の向上と確保に関する検討会」(座長慶応大学大学院田中滋教授)2009年3月
文献4 厚生労働省「チーム医療推進会議」(座長 永井良三・自治医科大学学長)2013年3月