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訪問看護の未来

連載コラム10:看護師の特定行為研修と訪問看護師(後編)

■特定行為研修と訪問看護師

前回から「特定行為に係る看護師の研修制度」を追っている。前回は、この制度が2015年にスタートするまでに辿った国内での検討と、そこに至るまでの実態、そして我が国に先んじて看護師が特定行為を行っていた先進諸国の経緯を見てきた。

では今回は、特定行為研修の具体的な内容を、訪問看護師業務におけるその役割を例に挙げながら解説していこう。訪問看護師を例に挙げるのは、医師と別々に一人で利用者宅を訪れケアを行うその業務特性上、特定行為の実施が非常に期待されている状況があるからだ。

(1)特定行為および特定行為区分

先述のように、スキルミクスではどの領域でそれを行うかを明確にしなければならない。この領域の確定が最初のステップだ。

看護師の特定行為については、様々な議論の結果、38行為21区分がまず定められた。図1にこれを示す。

この区分を見るともちろん病院内で行う行為も多いが、在宅医療領域で訪問看護師が係わる行為も多い。たとえば「栄養および水分管理に係わる薬剤投与関連」の「脱水症状に対する輸液による補正」などがそうだ。そのほか「創傷管理関連」の「褥瘡(じょくそう)又は慢性損傷の治療における血流のない壊死組織の除去」、「呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連」の「気管カニューレの交換」、「ろう孔管理関連」の「胃ろうカテーテル若しくはカテーテル又は胃ろうボタンの交換」などがそうだ。

図1 特定行為および特定行為区分(38行為21区分)201606_10_01.png

次に、このような特定行為が認められた結果、訪問看護師の業務が実際にどのように変わるかを図2を見ながら考えていこう。

たとえば在宅療養中に脱水を繰り返す患者Aさんの場合ではどうだろうか。Aさんはしばしば脱水症状を起こす。これまで訪問看護師は脱水に気付いたとき、それを医師に報告し、医師の指示を待ってから点滴の処置を行っていた。しかし、休日や夜間で医師と連絡が取れなかったりすると治療開始が遅れる。

この場合、特定行為の研修を受けた訪問看護師であれば、事前に定められた業務手順(プロトコール)の範囲に限定されはするものの、自らの判断で点滴を開始することができ、事後に医師への実施報告を行えば良い。

こうした特定行為研修を受けた看護師と受けていない看護師の業務の流れを比較したものが、図2である。

医師となかなか連絡が取れない在宅医療の場合、こうした特定行為が威力を発揮する。

図2 特定行為研修で変わる訪問看護師の業務201606_10_02.png

(2)業務手順(プロトコール)

こうした特定行為を看護師が行うには、医師との間で事前に定められた業務手順(プロトコール)が大事である。

プロトコールもやはり、脱水の例で見ていこう。図3に「脱水症状に対する輸液の補正」に関するプロトコール例を示した。

業務手順では、以下の6つのポイントを押さえることが必要だ。①当該手順書に係わる特定行為の対象となる患者であること、②看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲を明確にすること、③診療の補助の内容、④特定行為を行う時に確認すべき事項を明らかにすること、⑤医療の安全を確保するために医師との連絡が必要となった場合の連絡体制、⑥特定行為を行った後の医師に対する報告の方法。以上を手順書に記載する。

図3 脱水症状に対する輸液の補正の業務手順(プロトコール)例201606_10_03.png

(3)特定行為研修

では、このような特定行為研修はどこで受けられるのだろうか?

特定行為研修は厚生労働省の認可を受けた大学院などの教育機関、医療関連団体などで受けることができる。

図4に2016年5月現在、特定行為研修を行う指定研修機関の21施設を示した。著者が勤務する国際医療福祉大学大学院もその一つである。著者もこの教育に係わっているが、毎年10名程度の大学院修士レベルの院生を受け入れて実施している。

それぞれの指定研修機関は、養成したい看護師の対象領域が、おのおの異なっている。たとえば国際医療福祉大学大学院の場合は慢性期、周術期、聖路加看護大学の場合は小児、麻酔急性期ケア、東京医療保健大学の場合はクリテイカルケアなどとそれぞれプログラムが異なり、それにより研修対象となる特定行為区分も異なっている。

図4201606_10_04.png

(4)研修の実際

実際の研修はどのように開催されるのだろうか?

特定行為研修の教育内容は、すべての特定行為区分に共通する「共通科目」と、特定行為区分ごとに異なる「区分別科目」から構成されており、それぞれ講義と、演習または実習という2つの内容から成り立っている。

受講生の多くが医療機関に勤める現役の看護師と想定されるため、受講生の所属する施設が指定研修機関の協力施設となって実習を受け入れるケースが多いと思われる。

研修終了後のことを考えると、実際に現場で指示を出す医師に実習の指導をお願いすることがスムーズかもしれない。しかし該当区分の特定行為が自施設では得られない場合は他施設での実習となるだろう。

実習では行為の難度に応じて5例又は10例程度の症例を経験することが求められており、また、実地の学習以外にシミュレーターを用いた学習も行われている。

対象となる受講生に法律上の規定はないが、現場で役割を発揮できるチーム医療のキーパーソンとして、おおむね3~5年の実務経験を有する看護師の受講を想定している。

受講期間は指定機関が選択した医療区分の数と内容にもよるが、最短4か月から2年の間である。図5に共通科目、区分別科目の内容と時間数、図6に日本慢性期医療協会が実施している研修スケジュールを例示する。

共通科目と区分別科目ごとに教科書が用意され、働きながら学ぶ受講生のためにe-ラーニングも用意される。

履修の成果は必要な時間数以上を受講していることを確認するとともに筆記試験や実技試験を通じて行うこととしている。

指定研修期間がどのように研修を実施するのかについては、図7に詳しい。

図5 共通科目、区分別科目時間数201606_10_05.png

図6201606_10_06.png

図7201606_10_07.png

(5)指定研修機関の基準

次は、どういった研修期間が特定行為研修の指定を受けられるのかを見ていこう。

特定行為研修を行う研修機関は、以下のような基準を満たして厚生労働省の認可を受けなければならない。

①特定行為研修の選任の責任者を配置すること、②適当な指導者による研修実施、③講義・演習に適当な施設・設備が利用可能であること、④実習に適当な施設が利用可能であること、⑤実習の際、利用者や患者に対して適切な説明を実施すること、⑥特定行為研修管理委員会を設置すること、などである。

なお、指定研修機関の指定に関する審議は毎年2月と8月に移動審議会で行われている。

こうした指定研修機関を支援するために、カリキュラム作成や備品購入など設置準備に必要な経費や指定後の運営費などへの補助に関する予算措置があるのでぜひとも利用したいものだ。また、研修にあたる指導者を養成する講習会も各地で開かれているので、これも利用すべきだろう。

この新制度を用いることで、訪問看護業務も大きく変わることになるだろう。

特定行為の指定研修を受講した訪問看護師は、医師の包括的指示の下、定められた業務手順(プロトコール)に従い、患者の病態確認も含めて難易度の高い診療の補助行為ができるようになる。

こうした訪問看護師による特定行為の実施こそが、前述したスキルミクスに他ならない。今年を日本における訪問看護のスキルミクスの元年としたいものだ。

■おわりに

さて、医療業界では様々な改革が、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目指して加速している。2025年には医療・介護・年金を支える社会保障給付費が、現状の107兆円からなんと140兆円まで膨れ上がる。さらにそれを支える生産年齢人口が減る。医療・介護の機能強化と効率化の一体改革は待ったなしだ。

2025年問題とそれに向けた改革の中で、スキルミクスの議論は避けては通れない。医療・介護の質を落とさずにそのコストを下げるというスキルミクスがこれからの改革の大きな柱となるだろう。

医療・介護産業は労働集約型産業だ。もちろん足りない人材を増やすための努力も必要だ。しかし、生産年齢人口が減る中で、医療と介護に無尽蔵の人材を集めることは現実にはなかなか難しい。その中にあって既存の人材と職能をフル活用するスキルミクスの議論に、期待がますます高まっている。

現在、看護師の有資格者は約240万人いると言われるが、そのうち看護師としての職についていない「潜在看護師」が約70万人おり、実際に働いている看護師は170万人ほどだ。この数を増やすだけでなく、ここから2桁万人の特定行為研修修了者を輩出してニーズに応えようというのが厚生労働省の戦略となっている。

こうした観点から訪問看護におけるスキルミクスとしての特定行為研修に注目したい。