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訪問看護の未来

連載コラム11:医療と介護の連携とICT(前編)

■はじめに

2025年という団塊の世代700万人が後期高齢者となる時期が目前に迫り、医療・介護の提供体制の見直しが急ピッチで進められている。

さて2014年6月の国会で、この2025年へ向けた医療と介護の改革法、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」(以下、医療介護一括法)が可決成立した。本法は、医療法の改正や介護保険法改正など19本の改正案を一括としたパッケージ法となっている。この医療介護一括法の最大の政策課題が、「地域包括ケアシステム」の構築に他ならない。

今回は、この地域包括ケアシステムにおける医療と介護の連携とICTについて見ていこう。

■地域包括ケアシステムとは何か?

地域包括ケアシステムとは、「介護が必要になっても、住み慣れた地域で、その人らしい自立した生活を送ることができるよう、医療、介護、予防、生活支援、住まいを包括的かつ継続的に提供するシステム」のことである。一言で言えば「エージング・イン・プレース(Aging in Place)」すなわち「住み慣れた地域で最期まで」という考え方と言える。

また、地域包括ケアシステムを定義づけた「地域包括ケア研究会」の報告書によれば、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」としている。

その際、「おおむね30分以内に駆けつけられる圏域」を理想的な「地域包括ケア圏域」として定義し、具体的には、人口1万人程度の中学校区を基本とすることとしている。(図1)

図1201607_11_01.jpg201605_6_01.png

■地域包括ケアシステムにおける多職種連携

名前だけを聞くと難しく聞こえる地域包括ケアシステムだが、そのポイントは急性期を担う医療機関、回復期や慢性期を担う医療機関、在宅医療や通院治療を担う医療機関の専門職、高齢者の生活を支える様々な介護施設の介護福祉人材が、互いに顔の見える関係を築いて、患者さんや利用者さんの問題解決のために互いに連携していくことにある。

このためにはそれぞれの専門職の役割をお互いに理解することが必要だ。そしてそれぞれの専門性を尊重し、その専門性を活かして多職種チームによるサービス提供を行うことが大切だ。

地域包括ケアシステムで活躍する専門職や人材リストを図2に示した。その数はなんと30種以上にも上る。これらの専門職や人材を患者中心につなぎ合わせていく連携の仕組みの構築が、今や最大の懸案となっている。

図2201607_11_02.png

これらの専門職の中でも、地域包括ケアシステムの要となるのが看護師である。病院でもチーム医療の要は看護師であるが、地域でも同様で、看護師、中でも訪問看護師が地域の多職種連携のチーム、特に医療チームの要として欠かせない。現在、訪問看護ステーションは全国9000余り、そこで働く訪問看護師は約4万人である。

さて看護師の業務はこれまで、「保健師助産師看護師法(保助看法)」によって「傷病者 若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うこと」とされてきた。しかし前回のコラムでも述べたように医療介護一括法で、保助看法の一部改正が行われ、「特定看護師」という新たな役割が導入された。特定看護師とは団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けて、在宅医療などを推進していくため、医師の判断を待たずに、事前に定められた「手順書」により、脱水症状等に対する輸液による補正など一定の診療の補助が行える看護師のことである。

この診療行為を特定行為とよび、全部で21区分がある。特定看護師となるためには、こうした特定行為の研修を受ける必要がある。特定看護師の在宅医療における活躍が期待されている。

■医療と介護の違い

ところで、医療サービスは原則として医療保険から給付され、介護サービスは介護保険から給付されるということは当然ご存知だろう。両者は社会保険という点では同じだが、それぞれのサービス提供主体やサービス内容、支える専門人材、保険の仕組みが異なる。

2つの保険制度による複雑さは事業者にも"泣き所"となり得るが、サービスを受ける患者・利用者に不便を与えてはいけない。医療と介護サービスを切れ目無くシームレスに提供することが必要だ。

しかしながら現実にはこの医療・介護の連携がなかなか難しい。というのも、2つの制度は年々複雑化しているためだ。2000年に介護保険ができて以来の17年間で、診療報酬改定は8回、介護報酬改定は5回を経ている。こうして複雑化・多様化した医療・介護の両方のサービスに熟知してうまく両者をコーディネートすることは、すでに容易ではなくなっている。

また医療と介護の間には大きな溝がある。この溝は医療と介護がその依って立つ「モデル」の違いによる。たとえば図3の脳梗塞で右麻痺の女性の例を見ても、医療と介護では見方が異なる。医療職は女性の病態像に着目して、疾病改善を目指すように、いわゆる「疾病モデル」に立脚している。一方、介護福祉職は女性の日常生活の障害に着目して、本人の気持ちや生活の質(QOL)を重視する「障害モデル」や「生活モデル」に依って立つ。

こうしたモデルの違いはそれぞれの職種の専門性の違いであり、別々の方向から同じ患者さんを見ているのだが、この違いがときとして相互の理解を妨げ、溝をつくる。また教育バックグラウンドもそれぞれ異なる。医療は理系モデルで、介護福祉は文系モデルとも言えるかもしれない。教育の背景から見た医療と介護の違いは、研究・開発職と営業・販売職の違いと言えば分かりやすいだろうか?

この二つの世界は言葉も違うし、文化も異なるので言わば遠く離れた外国ぐらいの隔たりがあるといっても過言ではない。両者が連携するのは至難の業といってよいだろう。

図3201607_11_03.png

■医療と介護の連携

さて前置きが少し長くなったが、ここからは医療と介護のシームレスな連携を目指す取り組みについて見て行こう。

こうした医療と介護の連携に関する議論は、2012年の診療報酬・介護報酬同時改定のときにも議論された。2011年10月に、翌年の2012年の同時改定を控えて、診療報酬改定を検討中の中医協と、介護報酬改定を検討中の介護給付費分科会の委員が、医療と介護の垣根を取り払った初の合同打ち合わせを行った。この時のテーマが「医療と介護の連携」であった。今なお息づくこの時の議論を振り返ってみよう。

この合同打ち合わせ会では、中医協の診療側委員が意見書を提出した。意見書では、「医療と介護の連携は、個々の医療機関の医療従事者や介護サービス事業者の間の個別の努力による連携では全く不十分である」として、地域全体のコーディネート役を担い、医療と介護をつなぐ「地域連携の拠点(ハブ)」の設置の必要性を提言した。

確かにこれまでにも診療報酬と介護報酬の改定のたびに、医療、介護関係者間の連携や、医療機関と介護サービス事業者間の連携を促進するための仕組みと報酬上の評価が導入されてきた。しかし意見書では現行の報酬体系の、こうした医療と介護の部分的、断片的な連携ではなく、体系的な医療と介護の連携ネットワーク構築の仕組みが必要であるとしている。

もちろん、これまでもこうした地域における医療・介護のコーディネート機能を担う仕組みが無かったわけではない。介護保険法によって設置された地域包括支援センターが主に介護サービスを中心に地域の介護と医療のコーディネート機能を担っている。地域包括支援センターでは保健師・社会福祉士・ケアマネージャーらが、介護予防や個別のケアマネジメントのコーディネートを行っている。また最近では地域ケア会議が医療関係者も交えて、コーディネート機能のスキルアップや、個別事例からの市町村レベルでの政策課題の抽出に貢献するものと期待されている。

ところが現実には地域包括支援センターの職員は介護予防事業に忙殺されていて、医療と介護の連携まで手が回らないのが実情だ。

上述の議論の結果、2011年からは医療と介護の連携をコーディネートする「在宅医療連携拠点事業」が、厚労省医政局モデル事業として始まった。

まさに先の意見書にも述べられた医療と介護の地域連携拠点(ハブ)のイメージであった在宅医療連携拠点事業だが、残念なことに、この事業は2012年11月の政府の行政刷新会議が行った新仕分けで、モデル事業としての予算仕分けの対象となってしまった。

ただ在宅医療連携拠点事業は、2011年度には全国10か所、12年度には105か所で実施され、さまざまな取り組みが行われた。その結果、関係者間の顔の見える関係の構築、在宅医療・介護従事者等の多職種連携、ICTを用いた医療介護の情報共有に関する理解の深まりなどで一定の成果を挙げている。

■鶴岡市医師会のNet4U

在宅医療連携拠点事業の例として、山形県鶴岡地区医師会の医療と介護のICT事業を見ていこう。

山形県鶴岡地区医師会では、患者情報を医療関係者間で共有する医療機関の電子カルテなどのEHRネットワーク「Net4U」を2002年から運用し、がん患者の在宅終末期医療における、在宅主治医、訪問看護師、薬剤師、病院主治医、緩和ケア専門チーム、リハビリスタッフなどのタイムリーな情報共有ツールとして多くの利用実績を積み上げてきた。

このシステムが10年を経過して更新の必要性も生じたため、2012年5月から先の在宅医療連携拠点事業のもと、医療と介護を繋ぐネットワーク「新Net4U」として全面改定した。改定に伴っては、参加者の背景がわかるようなソーシャルネットワークサービス(SNS)的な要素が追加され、地域の病院・診療所・訪問看護、調剤薬局や居宅介護支援事業所の多職種がお互いを理解し合いながら地域の患者・要介護者の情報を連携して利用できる地域情報連携の体制としても充実した。

さらに、上記と別に、患者や家族・介護者が医療職・介護職と情報共有とコミュニケーションを行うシステム「Note4U(ノートフォーユー)」も新たに拡張した。「Note4U」は、患者や家族側の記録であるパーソナルヘルスレコード(PHR)に、医療者・介護者が書き込みを行うというもので、スマートフォンやタブレットに対応した結果、パソコン対応のみの時よりも高齢の患者や家族に利用される機会が増えている。結果、患者からの情報を医師・看護師、介護者等が共有する環境の整備につながった。

このように、医療連携を軸としたアプリケーション・サービス・プロバイダー(ASP)型地域患者情報共有システムを中核としつつ、患者・家族が参加して健康情報・介護情報を記録し、医師等とコミュニケーションができるパーソナルヘルスレコード(PHR)機能が追加されたことで、特に在宅ケアの質が上がることが期待されている(図4)

図4201607_11_04.png
医療・介護連携型ネットワーク「Net4U」 (出典)総務省「医療・ヘルスケア分野におけるICT化の最新動向に関する調査研究」(平成26年)

 医療と介護の連携について、その背景から取り組みの経緯を追ってきたが、「Net4U」のような実績を残したシステムを生み出しつつも、在宅医療連携拠点事業は事業仕分けで幕を閉じてしまった。そのまま医療と介護の連携は潰えてしまったのだろうか?その後の展開については後半で触れていきたい。