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訪問看護の未来

連載コラム12:医療と介護の連携とICT(後編)

■在宅医療・介護連携事業

前回から、医療と介護の連携とICTについて見てきている。

前回は、医療と介護が連携を図ろうとするその背景と軌跡を追い、地域包括ケアシステムやそこでの多職種連携、基本的な医療と介護の違いを捉えた上で、実際の連携の取り組みを見てきた。医療と介護の垣根を越えた協議から生まれた在宅医療連携拠点事業と同事業の事例である山形県鶴岡市の「Net4U」について紹介したところまでが前回の内容だった。

今回は、在宅医療連携拠点事業の次に登場した取り組みについて見ていこう。

さて先述の事業仕分けによって在宅医療連携拠点事業は消えたが、その間に蓄えられたノウハウをもとに、2015年4月からは市町村事業である「地域支援事業」の「在宅医療・介護連携推進事業」として医療と介護の連携事業が再スタートを切ることになった。

「地域支援事業」は2014年の地域医療介護一括法の中の介護保険法改正の中で法制化され、その中で「在宅医療・介護連携推進事業」が規定されている。本事業は、2015年4月時点では可能な市区町村のみがまずその取り組みを開始し、2018年4月までに全ての市区町村で実施することとなっている。

では在宅医療・介護連携推進事業の目的について見ていこう。目的は以下である。

「在宅医療・介護の連携推進業務は、医療と介護の両方を必要とする状態の高齢者が、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、在宅医療と介護サービスを一体的に提供するために、居宅に関する医療機関と介護サービス事業者などの関係者の連携を推進することを目的とする」としている。

こうした目的の下に以下の(ア)から(ク)までの事業内容を市区町村ごとに展開することとしている(図5)。

(ア)地域の医療・介護サービス資源の把握:地域の医療機関、介護事業者の住所、機能等を調査し、これまでに自治体で把握している情報と併せて資源マップまたはリストを作成し、それを関係者に広く公開する。

(イ)在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応の協議:地域の医療・介護関係者等が参画する会議を開催し、在宅医療・介護連携の課題を抽出し、その解決策及びこの他の各事業の対応方針について協議する。

(ウ)後述する「在宅医療・介護連携支援センター(仮称)」を設置する。

(エ)在宅医療・介護サービスの情報の共有支援:地域連携パス等の情報共有ツールや情報共有の手順等を定めたマニュアルを活用し、地域の医療・介護関係者等の間で、情報を共有できるように支援する。

(オ)在宅医療・介護関係者の研修:医療関係者に対する介護サービス等の研修、介護関係者に対する医療等の研修を実施する。また多職種連携のグループワークを実施する。

(カ)24時間365日の在宅医療・介護サービス提供体制の構築:地域の医療・介護関係者の協力を得て、緊急時等の連絡体制も含めた在宅医療・介護の提供体制を整備する。

(キ)地域住民への普及啓発:在宅医療・介護サービスに関する講演会開催、パンフレットの作成・配布等によって、地域住民の在宅医療・介護連携の理解の促進を図る。

(ク)二次医療圏内・関係市区町村の連携:退院後の在宅医療・介護サービスが円滑に提供されるよう、同一の二次医療圏内にある市区町村が連携し、当該二次医療圏内にある病院と、介護サービス事業者間における情報共有等の方法について協議する。

図5201607_11_05.png

■在宅医療と介護における情報共有

次に見ていくものは、上記の在宅医療・介護連携推進事業の中でも取り上げた「(エ)在宅医療・介護サービス等の情報の共有支援」における医療・介護における情報共有である。

在宅では医療スタッフや介護スタッフ、家族、患者(利用者)が一堂に会する機会が意外に少ない。そこで関係者間の情報共有ツールが必須となる。これまでの情報共有ツールとしては、電話、ファックス、手紙、カンファレンス、患者(利用者)宅に置く連絡ノートなどの方法があるが、それぞれに利点、欠点がある。

たとえば電話は即時性があって1対1の対応や緊急時の対応には優れているが、かけても相手につながらない、会話内容を記録に残しにくいなど難点もある。またケアマネージャーが医師に電話しても「忙しい」と言われて切られることが多く、「ケアマネタイム」と呼ばれるケアマネージャーの連絡専用時間帯まで作る必要が出ている。このように電話は相手に対する気遣いも必要で大変だ。

ではファックスはどうだろう?ファックスや書面の郵送では記録性は高いが、記載するのに手間がかかる。また情報の方向性が一方的で、即応性がない。相手がファックスや郵送された書面を見たかどうかもわからない。

退院時カンファレンスやサービス担当者会議などの会議は、大人数でいちどきに情報を共有できる上、デイスカッションができるなど長所も多いが、集まるのにコストや時間がかかる。また集まる場所も必要など、簡単に週に何度も会議を行えない短所もある。

最後に患者(利用者)宅においてある連絡ノートであるが、もしケアに係わるメンバー全員が記入してくれたならば、非常に優れた情報共有のツールと言える。記録性にも優れている。しかし、患者(利用者)宅に行かなければ見ることができないのは不便だ。

ご覧いただいたように、これまでのどの情報共有ツールにもメリット、デメリットの両方があった。

しかし最近、これらの"いいとこ取り"をしたツールが在宅でも普及し始めた。それが医療に特化したクラウド型のソーシャルネットワークサービス(SNS)である。SNSは一般的にはFacebookなどでお馴染みのICT情報共有ツールであるが、これをセキュアな情報環境に保って医療にも応用する試みが増えている。

SNSの特徴は同時に大勢に情報を伝えることができることにある。さらに記録ができ、情報管理(セキュリティ)についても万全を期すことができる。また相手の都合や時間を気にせずに連絡や書き込みができて、アラート機能によってスピーディーな連絡もある程度可能だ。閲覧できる範囲を区切って患者(利用者)・家族に参加してもらうこともできる。クラウド環境なので、いつでもどこでも閲覧可能なことも利点だ。

SNSは患者宅に置いてあった連絡ノートを電子版にしたようなツールだ。連絡ノートだけでなく、Eメールやファックスのような機能もあり、さらに簡単な会議のようなこともできたりするまさに"いいとこ取り"のツールと言える。これだけ機能がついても導入経費は安めで、無料で提供してくれるところすらあるのだからありがたい。

そんなSNSの1つ「メディカル・ケア・ステーション」を紹介しよう。

メディカル・ケア・ステーション(Medical Care Station)は、日本エンブレースが開発・運営し、ソフトバンクがサポートする在宅における医療介護連携のSNSで、市町村の地域医療支援事業の後押しもあって、現在各地の医師会を中心に急速に普及し始めている。

メディカル・ケア・ステーションは基本的には図6が示すように、Facebookにも似たタイムライン上で医療従事者、介護従事者、家族、本人も参加することができる。初期導入費用や運用費用は無料である。

メディカル・ケア・ステーションを使うことでどのような効果が得られるのだろうか?

導入するとまず、多職種がフラットな立場で一箇所に意見を出し、デイスカッションを行うことができる。これまではケアマネの9割以上が「医師に相談しにくい」と言っていたが、メディカル・ケア・ステーションでは気兼ねなく相談ができる。

ケアマネだけではない。たとえば病院スタッフ、行政、保健所、福祉用具、保険薬局、ボランテイア、友人、家族など、在宅医療の専門職ではなく、これまでは専門的な議論に加わることを躊躇ってしまっていた人たちが、メディカル・ケア・ステーションに「招待」されて連携チームに加わり、議論や情報共有を気軽にできるようになったのだ。

場所や時間を選ばず情報をやり取りできるのは前述の通りだが、自分が発信していないほかのメンバー同士のやり取りもわかり、訪問看護ステーションなどの場合は、訪問前であっても利用者の状況のチェックができる。

関係者はこれまでにないフラットな関係を構築でき、メンバー間の信頼感も増すことができた。それはさらに、介護職やケアマネが連携する際の不安感を減少させて、関係者全員のモチベーションアップにもつながったという。

図6201607_11_06.png
メディカル・ケア・ステーションの画面

※メディカル・ケア・ステーションについては以下のWebサイトをご覧ください。
https://www.medical-care.net/html/

■実際の連携の現場

私がこのコラムを提供しているケアーズの関係者にも、先日、実際の連携の現場を見てもらう取り組みを行った。私が勤める国際医療福祉大学三田病院の地域医療連携部を見てもらったのだ。

その中でも地域連携室を担当するメディカル・ソーシャルワーカーから、「訪問看護ステーションにも、訪問前から積極的に連携を図ってほしい」、「地域医療連携部とのコミュニケーションによって訪問前から利用者さんの状況をチェックしてほしい」といった話が訪問看護ステーション向けに出されました。こうした医療と介護の連携も、上述のSNSなどICTの活用によって迅速で気軽な連携が日常的にできるようになるだろう。

ケアーズにはこうした現場を見てもらう機会を、今後も十分に活用していってほしいと思っている。

■おわりに

今回は、医療と介護の連携の仕組みや方法について見てきた。訪問看護ステーションでは特にこうした医療・介護のICT連携ツールが重要であるし、普及が望まれる。

またこれからさらに深刻さを増す日本の高齢化については、中国、韓国、台湾など高齢化予備軍の各国が注目している。日本の仕組みが成功すればこれらの国でも普及することになるかもしれない。そういう意味で今の日本は東アジアの国々に先駆けて壮大な社会実験を行っていると言ってもよい。

2025年まであと10年足らず。残された時間は少ない。それぞれの地域で地域包括ケアシステムの構築、中でも医療と介護の連携の仕組みや、ICTを活用した情報共有の仕組みを早急に整えたいものだ。