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訪問看護の未来

連載コラム13:米国の訪問看護の質評価と支払方式(前編)

■はじめに

20年も前のことだが、ニューヨークへ留学し、家庭医として学んでいた時、訪問看護師さんと往診に出かけたことがある。 とあるアパートの1室に、バスルームで転んで外出もままならないというユダヤ人のおばあさんを訪ねた。ひととおり診察を終えてもそれで帰るわけではなく、転倒したというバスルームをチェックした。照明や段差を調べ、今後のリスクを評価し必要ならば対策を考える。さらに、薬箱や冷蔵庫を開けて残薬や食品の内容をチェックしたりした。
今から思うと、当時からニューヨークでは訪問看護が盛んだったし、サービスが成熟していた。

さて今回は最近の米国における訪問看護の質評価の現状、さらに訪問看護の質に応じた支払い方式の最新の話題を見ていこう。

■ニューヨークの大規模訪問看護VNSNY

まずはニューヨークの訪問看護事業所の中でもひときわ大きなニューヨーク訪問看護サービス(VNSNY :Visting Nurse Service of New York)を紹介しよう。VNSNYは世界でも指折りの大規模訪問看護事業所だ。今では大規模訪問看護の代名詞のようなVNSNYも、創設時はやはり小さな事業所だった。

VNSNYの歴史は1893年に二人の若い看護師がはじめた小さな訪問看護事業所からスタートする。この時の設立目的は、ニューヨークの貧困層の結核患者のケアを行うことだった。

以来120年、今ではニューヨーク市内から近郊までカバーするニューヨーク最大の規模の事業所に成長した。現在のVNSNYは、看護師数はなんと2500人、そしてリハビリセラピスト700人、ソーシャルワーカ600人、ヘルパー6000人、栄養士140人あまりを擁していて、毎日3万件の訪問を行っている。

さて、訪問看護師に求められるのはいつの時代でも患者宅を素早く訪れるための機動性である。19世紀末とはいえ、マンハッタンは既に移民が押し寄せ人種のるつぼと化した随一の大都市であり、交通事情は良好ではなかった。ちょうどこの頃、5区からなる現在のニューヨーク市域が完成し、1900年代に入ってすぐ、交通事情の改善のために地下鉄が開通している。人口の爆発的増加に対応して摩天楼の建設ラッシュが起きたのもこの頃だ。

そんな高層ビルの屋上から屋上へと近道をして患者宅を訪問したのが、VNSNYの創始者の一人のリリアンである。1890年代のマンハッタンのビルの屋上を移動する彼女の姿は、今も伝わる語り草となった(図表1)。

図表1201608_13_01.jpg

今ももちろん、大都市マンハッタンは交通渋滞が多く、自動車の取得率が全米でもっとも低い。市民の主な足は地下鉄などの公共交通機関や自転車である。当然、路上駐車などもってのほかであるため、VNSNYの看護師さんの移動の武器としても自転車が大活躍している(図表2)。

図表2201608_13_02.png

■2つの質評価、プロセス評価とアウトカム評価

さあ、そろそろ本題に入ろう。今回の本題は、米国の訪問看護の質評価についてだ。

ここまでの前置きで出てきたVNSNYも、当然、訪問看護サービスの質評価と改善活動に力をいれている。まずはその概要から説明しよう。

一般に医療分野における評価の視点は、ストラクチャー(構造)、プロセス(過程)、アウトカム(結果)の3つからなると言われているが、保険制度や医療設備、人員と言ったストラクチャー社会的な背景がより問われる部分であるので、通常の事業においてはプロセスとアウトカムによって評価を行う。つまり、医療サービスの質評価と改善活動はプロセス評価とアウトカム評価の指標と、その指標改善からなると言える。

訪問看護の場合に当てはめると、プロセス評価は糖尿病ケア、創傷ケア、心不全ケアなど疾病別ケアマネジメントの評価である。それぞれのケアマネジメントが文書化されているかどうかや、実際のケアをモニターすることで評価する。では、訪問看護のアウトカム評価は何かと言うと、「急性期病院の入院率」や「日常生活動作の改善率」などが、その指標として用いられている。

プロセス評価がなければスタッフの行動を評価できず、改善も行いにくい。しかし、プロセス評価だけでは、その行動が結果に結びついていないことを見逃す可能性が生じる。そこで結果を追うアウトカム評価が必要なるが、アウトカム評価だけでは結果の良し悪しのみで何を改善すればよいかがわからなくなる。そこでプロセス評価とアウトカム評価の両方をセットで運用する必要がある。

■VNSNYが行う訪問看護の質評価

では、vnsnyが実際に行っていた訪問看護の評価と改善活動の例を見てみることにしよう。その中でも「急性期病院への入院率」を追ってみたい。入院で発生する医療費は高額であり、「病状の急変を防げなかった」結果とも言える。そのため、当然ながら訪問看護における目標は「いかに入院率を下げるか」ということになる。

vnsnyでの入院率の目標は、「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」というように設定している。入院医療費が高騰しているニューヨークでは、これだけで米国の公的保険のメディケアにおいて約15億ドルもの節約の見込みになるという。

VNSNYが在宅ケア患者の入院について詳しく分析したところ、退院後14日以内の再入院が多いことが分かった。その理由は以下のようなものだった。退院後のケアの方向性・考え方が、患者(家族)、病院、開業医、訪問看護事業所の4 者でまったくバラバラのまま、しかも相互に連携が取れていないために、十分で最良なケアに至らず、その結果、病状が悪化し、あるいは好転せずに再入院となることが多かったのだ。

再入院に至る理由がわかったことでVNSNYでは、患者の退院後14日間、訪問看護師が関係者をコーディネートして、患者が確実に服薬できるような環境を整えることや、医師の診察と入院のリスク・アセスメントによって訪問間隔を縮めたり遠隔医療(テレヘルス)でバイタル管理を密にしたりといった活動を実施した。

こうした活動が実を結び、VNSNYは「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」という目標の達成に成功した。

米国と同じように日本でも最近、平均在院日数の短縮が進んだ結果、それが反映されて退院直後の再入院が増えていると言われている。こうした退院直後の再入院を防ぐためにも、今年(平成28年)4月診療報酬改定で、退院直後の病棟看護師による在宅訪問に点数が付くようになった。今後、退院直後の在宅患者への多職種連携チームの介入が必要なことは、米国とまったく同じだ。

今回はニューヨークの伝統ある大規模訪問看護事業所、VNSNYの成り立ちから振り返りつつ、VNSNYの事例によって訪問看護の質の評価が米国でどのようになされているのかを見てきた。次回はさらにこの質評価を深掘りして、質評価がどのように報酬へと反映されるのかを見ていこう。また、我が国の訪問看護の質評価の現状についても触れていきたい。