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訪問看護の未来

連載コラム14:米国の訪問看護の質評価と支払方式(後編)

■質評価が報酬を左右するP4P

前回は、ニューヨークの大規模訪問看護事業所、VNSNYの事例を通じて、米国における訪問看護の質評価について話を進めてきた。今回はそれに引き続き、質評価に対する診療報酬からのアプローチについて、その支払方式と合わせて見ていきたい。

前回まで見てきたような訪問看護の質評価や改善活動を、診療報酬の上でも評価しようとする動きが始まっている。それが2008年から始まった訪問看護P4Pのデモンストレーション・プロジェクトである。

P4Pというのは、Pay for Performanceのことで、「高質のヘルスケアサービスの提供に対して経済的インセンティブを、EBMに基づいた基準を測定することで与える方法である。その目的は単に高質で効率的な医療にボーナスを与えることにとどまらず、高質のヘルスケアサービスへの改善プロセスを促すことにある。」(Institute of Medicine 2006年)。つまり、高質で経済効率の高い医療を行った医師や医療機関に対してインセンティブを高めると同時に、質が低かったり非効率な医療を提供したりした医師や医療機関には、ペナルティとともに改善を促していくものである。

P4Pは主として米国・英国・カナダ・オーストラリアで導入が進んでいて、最近では韓国、台湾でも導入された。

P4Pの具体的な方式は次のようなものだ。まず、いくつかの臨床指標を設定してその達成度に応じて病院や事業所を順位づける。そして、その上位に対して加算を、下位に対しては減算を行うことで、インセンティブとペナルティが与えられるというものだ。

日本では今年4月の報酬改定で、回復期リハに「FIM利得」に応じた支払い方式が導入されたが、これも一種のP4Pといえる。「FIM」とはFanctional Independence Measureの略で「機能的自立度評価表」を意味し、日常の生活動作の自立度を示す指標のことである。「FIM利得」というのは、ケア終了時あるいは現時点のFIMからケア開始時のFIMを引いた値で、ケアの結果、どれだけ介助量が少なくなったか、自分自身でできることが増えたかを示すものである。

今回の回復期リハにおけるアウトカム評価導入では、これまで患者1人1日あたりリハビリが9単位まで出来高算定だったものが、基準を満たさない場合、1人1日6単位を越す分が入院科に包括されてしまうという一種のペナルティが課せられる形となっている。

■P4Pと米国の訪問看護の支払い方式

P4Pは一般に包括支払方式に抱き合わせて導入されることが多い。というのも、包括支払方式では、実施したサービスを積み上げてその出来高に応じて支払う「出来高払い方式」と違って、いわゆる「マルメ方式」なので、放っておくと「粗診粗療」になりがちだ。このため、P4Pは包括払い方式に抱き合わせて、努力して質を改善したところにボーナスを与えるという方法をとることが大事だ。

米国の場合、そもそも訪問看護の報酬も包括支払方式になっているので、必然的にこのP4Pとの抱き合わせが必要となったわけだ。

訪問看護におけるP4Pを解説する前に、まずは米国の訪問看護の支払い方式について振り返ってみよう。

米国では訪問看護の診療報酬支払いにも包括支払い方式が導入されていて、訪問看護包括払い制(HHA/PPS:Home Health Agency /Prospective Payment System)と呼ばれている。

このHHA/PPSは、入院におけるDRG/PPS同様、以下のような診断群分類と支払いルールとなっている。まず包括期間は60日を1期間として以下の診断群を1つ選び包括支払いを行う(図表3)。この診断群は22の診断群(図表4)と12のその他診断群からなる。そしてそれぞれの診断群において3種類のレベルを選ぶ。①臨床的重症度(3段階)、②機能障害度(3段階)、③訪問頻度(60日以内に14回の訪問、14回以上の訪問)。以上の診断群と3種類のレベルの組み合わせで153種類のケースミックスができる。そしてそれぞれに包括料金が付いている。

図表3 米国の訪問看護包括支払いの仕組み201608_14_01.png

図表4 米国の訪問看護包括支払いにおける診断群201608_14_02.png

■P4Pと訪問看護の質評価指標

さて、こうした訪問看護の包括支払方式のもとで、P4Pが2008年から公的保険を取り扱うメディケア&メディケイドサービスセンター(Centers for Medicare & Medicaid Services :CMS)によってデモンストレーション・プロジェクトとしてスタートした。

具体的には7つの州の訪問看護サービス事業所567箇所に対して、試行的に以下の臨床指標を設定して、上位20%の高得点群と上位20%の改善群に対して臨床指標のポイントに応じた報酬支払いを行うこととした。

ここで用いられた訪問看護の臨床指標は以下である。①急性期病院への入院率、②救急外来受診率、③入浴の改善、④移動の改善、⑤車椅子への移乗の改善、⑥服薬コンプライアンスの改善、⑦手術創の改善(図表5)。

図表5 米国の訪問看護の質評価指標201608_14_03.jpg

■P4Pプロジェクトのデータからわかること

こうして始まった訪問看護P4Pプロジェクトについて、だいぶ運用のデータが集まってきている。実際にどのようなデータが集まっているのかを見てみると、例えば次のようなものが挙げられる。

急性期病院への入院回数を見てみると、成績トップの訪問看護事業所では年間16回であったが、下位20位の事業所ではその回数は43回に及んでいた。もちろん、それぞれの患者の疾病像や重症度が異なるにせよ、訪問看護事業所ごとに大きな質の違いが見られる結果となった。

また、急性期病院への再入院理由を見てみると、VNSNYの事例でもそうだったように、退院直後の再入院が多くを占めていた。この結果には米国における急性期病院の短い在院日数が表れている。さらに詳しく再入院理由を洗い出すと、在宅で日常管理がしっかりしていれば入院にならないはずの慢性心不全、慢性呼吸不全の増悪、脱水や電解質インバランス、肺炎、尿路感染症などが相当数含まれていることから、十分な管理が取られていなかった可能性が見えてくる。こうした点は、改善が可能な点として今後の運用に活かされることだろう。

■日本の訪問看護ステーションの質評価

では最後に、我が国での訪問看護ステーションの質評価について見ていこう。

我が国の訪問看護ステーション数は2015年時点で9356箇所となっている。この拠点数の推移を見ると、2012年の診療報酬改定で訪問看護に追い風が吹いたことがきっかけとなって上昇に転じ、今に至っている。ちなみに、このコラムを寄稿しているケアーズグループの訪問看護ステーションは、我が国全体の15.95%を占めている。およそ6箇所に1つはケアーズグループの訪問看護ステーションとなっている。

しかし、現時点での訪問看護の質評価を見てみると、介護保険の枠組みの中に存在する福祉サービスの第三者評価事業として、都道府県が認証する評価機関によって評価されているのみにとどまっている。当然、今回見てきたような米国の訪問看護のような実際の効果をともなった評価体制はなく、報酬との連動もしていない。

現在、我が国の訪問看護ステーションを評価している方法は、チェックリスト方式による定性評価とサーベイヤーによる現地サーベイの組み合わせによるもので、評価項目はプロセス評価が主体となっている。図表6に我が国の訪問看護ステーションで用いられているプロセス評価項目の一部を示した。

我が国の訪問看護評価には米国でなされているような入院率といったアウトカムの評価項目はないし、また、それを介護報酬や診療報酬にリンクさせるような訪問看護P4Pの仕組みもまだない。もちろん、事業所単位では独自の指標を定めてアウトカムの評価を取り入れているところもあるが、報酬を含んだ制度全体としての取り組みには達していないのが我が国の訪問看護の評価の現状である。

米国のようにその質を定量評価する段階までには至っていないその理由は、我が国の訪問看護ステーションでは、歴史的にまだ浅いことも相まって、まだその量的な拡充、大規模化のほうが先行していることにあるのだろう。下記図表6に示したプロセス評価項目も、訪問看護の業務上で基本的に抑えておくべき項目を並べているに過ぎない。これまでは、まだまだ基礎を満たした初級の訪問看護ステーションを数多く誕生させる時期だったのだ。

しかし、これからは質を問い、評価に直結させる姿勢が必要となるだろう。今後のわが国における訪問看護の量的拡充と大規模化、そしてその質的評価、そしてその質評価結果をなんとか診療報酬・介護報酬への反映したいものだ。

図表6 わが国の訪問看護サービスの評価項目(一部)

I 介護サービスの内容に関する事項

  1. 介護サービスの提供開始時における利用者等に対する説明及び契約等に当たり、利用者の権利擁護等のために講じている措置
  2. 利用者本意の介護サービスの質の確保のために講じている措置
  1. 認知症ケアの質を確保するために、従業者に対する認知症に関する研修を行うなどの取り組みを行っている。
  2. 利用者のプライバシーの保護の取り組みを行っている。
  3. 利用者の日常正確動作の維持及び改善のために、理学療法士又は作業療法士と連携して機能訓練を行っている。
  4. 利用者の介護者の心身の状況を把握し、利用者の家族が行う看護及び介護の方法について、家族に対して説明している。
  5. 利用者の病状を把握し、訪問看護計画に基づいて療養生活
  6. 養、排せつ、清潔保持、睡眠、衣生活等)の支援を行っている。
  7. 訪問看護計画に基づいて、利用者又はその家族に対する服
  8. 薬指導を行っている。
  9. 訪問看護計画に基づいて、利用者及びその家族の悩み、不安等への看護を行っている。
  10. 医療処置の質を確保するための仕組みがあり、機能している。
  11. 寝たきり、褥瘡、廃用症候群、脱水、転倒、骨折、誤燕、失禁又は病状の悪化について、予防的な対応を行っている。
  12. 利用者に、病状が急に変化した時の対応方法を示しており、機能している。
  13. 在宅におけるターミナルケアの質の確保のための仕組みがあり、機能している。