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訪問看護の未来

連載コラム16:フランスの在宅入院制度と訪問看護(後編)

■HADの実績

在宅医療分野の発展は目覚しく、以前であれば病院に入院して受けることが当たり前だった医療が在宅で受けられる時代となっている。今回はそうした入院と遜色ない医療を在宅で提供するフランスの「在宅入院制度(HAD、Hospitalization à Domicile)」を追うシリーズの2回目である。

前回は、フランスのHADが誕生した経緯から、HADの事業所、そこで提供されるサービスなどについて見てきた。今回は、HADの実績やHAD以外にもあるフランスの訪問看護について紹介したいと思う。

まずは、HAD事業所のフランス全国での実績を見ていこう。

2014年の実績でみると、在宅入院患者数は全フランスで10万6000人、HAD事業所の延べ入院日数は443万9500日、延べ入院件数は15万6300件、平均在院日数は30日、在宅入院の1日の医療費は平均200ユーロ(約2万6000円)、月6000ユーロ(約79万円、ケアや薬剤、衛生材料、搬送費、外部委託費)と言われ、病院の入院費に比べて5分の1程度である。HADが医療費の適正化にしっかりと効果を発揮していることが表れている。

在宅入院における診療内容で最も多いのが複雑ガーゼ交換で全体の25%を占めている。次いでターミナルケア、人工栄養、在宅化学療法、人工呼吸管理と続く。全医療行為のうち、3分の1ががんに関する医療処置となる。

さて、フランスにおける在宅入院の対象患者は、上記のようにがんの化学療法のような重篤な疾患や周産期ケアなどのため、100%共済保険などの医療保険の適応となり、患者自己負担はない。

なおフランスには介護保険はなく、税金を財源とする介護手当(APA)が要介護者に支給されている。介護手当は、在宅サービスや施設サービスの現物給付が受けられるものを基本として、中度以上になると金銭が支給されるというものである。

■HADが今後目指すもの

一方、年間700万人の入院患者のうちHAD事業所利用者は0.6%程度とまだ少ないのが現状で、フランス保健省としては在宅入院の普及を目指している。

具体的には2018年までの5か年計画で在宅入院を倍増させる方針だ。というのも在宅入院は医療費が入院よりも安く済むことと、その普及によって病院の在院日数をも短縮することが可能だからだ。フランスでも医療費は年々拡大しており、対GDP比でも割合を伸ばし続けている。こうした中で医療費の適正化に一定の効果を上げているHADの更なる普及に期待がもたれているのは当然と言える。こうした病院から在宅へと医療が移行している状況は、わが国と変わりない。

もちろん、HAD事業所にも課題はある。人材不足と地域格差の問題がそうだ。そもそもHAD事業所が成り立つには一定以上の人口規模が必要であり、それに満たない少人数の地域や村落ではかかりつけ医の往診や下記で紹介する訪問看護事業所によって対応がされている。この時点で格差が生じているのだが、さらに地域によってはこうしたかかりつけ医やHAD医が不足している現状がある。その一方、過密で競争が生じている地域もあり、国営に近い制度とは言え、フランス全土で均一なサービスとなっているわけではない。

こうした課題を解消するためにも、更なる医療費適正化の努力が求められている。

■フランスの訪問看護

以上、入院医療の代替となる高度な医療提供を行う在宅入院制度を見てきた。

この在宅入院事業所のほかにもフランスには訪問看護事業はある。フランスの訪問看護事業は以下の3種類に分類される。

①開業看護師による訪問看護、②在宅看護サービス事業(日本の訪問看護事業に相当する)、③在宅入院事業所。

まず①の開業看護師による訪問看護を見ていこう。

フランスは医療関連職種の開業を広く認めている。看護師総数45万人のうち15%は開業看護師として活動している。開業看護師は自宅を事務所として医師の指示に基づいて看護サービスを行う。また相談、助言、教育指導、カウンセリング、関連機関との調整など日本のケアマネージャーに近い役割を担っている。費用の支払いは保険者から1件当たりの定額で支払われる。

②の在宅看護サービス事業所(SSIAD)による訪問看護は日本の訪問看護事業所に相当する。看護師がヘルパーステーションのヘルパー等と在宅訪問を行い、主に要介護高齢者に医師の指示に基づき看護サービスを提供する。やはり支払は保険者から1件当たりの定額料金が支払われる。

③の在宅入院事業所は先述したように病院入院で行うような高度な医療を提供する。在宅入院事業所自体にも看護師が所属しており、コーディネート専門の看護師の他に高度な医療の提供を担当する看護師、また、看護師以外のPT、OT、薬剤師などの専門職が所属している。

このように訪問看護事業もフランスでは機能分化していることがうかがえる。

■おわりに

フランスの在宅入院制度(HAD)を振り返ってみた。これに類似する制度としては英国のHospital Care at HomeやオーストラリアのHospital In the Homeなどの制度がある。

わが国では2016年診療報酬改定で、退院直後の在宅療養支援として、以下のような項目が診療報酬に新設された。

「退院直後の在宅療養の支援として、医療ニーズが高い患者が安心・安全に在宅療養に移行し、在宅療養を継続できるようにするために、退院直後の一定期間、退院支援や訪問看護ステーションとの連携のために入院医療機関から行う訪問指導について評価する」。 この考え方はまさにフランスの在宅入院制度の初期段階と共通したものである。

まだ制度としてはわが国に在宅入院制度はないのであるが、今後それが誕生した時、また、現状であっても病院に近い医療を在宅に届ける時、主役となるのは訪問看護師である。

日本の訪問看護とフランスのHADの違いは、医師も含めた他職種のチームが事業所内にあることや配置されている医師や管理看護師はコーディネートの役割に重点が置かれていることにある。しかし、率先して他職種をコーディネートすることは現在の訪問看護でも可能であるし、期待されている部分であろうと思う。

今回、このコラムで述べた内容は、コラムを掲載している訪問看護開業運営支援のインキュベクス株式会社において開催され、著者が登壇する「メディケアBizイノベーションコース」などの講演の機会にも、ぜひ、お話ししたい。

近い将来、「注目を集めるわが国の在宅入院を見学した」と著者が報告する日が来るかもしれない。なにしろ、現場の技術としてはかつて病棟で診ていた患者の多くを、既に在宅で診ることができるレベルに至っているのだ。

わが国における在宅入院制度の今後の発展と、そこでの訪問看護師の活躍を期待したいものだ。