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訪問看護の未来

連載コラム19:看護と介護を一体的に提供する看多機(前編)

■はじめに

先日、横浜の88歳の叔父がすい臓がんで亡くなった。病院で診断を受けたのち、在宅で2ヶ月ほど過ごして、最期は自宅で妻や子供たち、孫たちに囲まれて息を引き取った。

叔父は訪問診療や訪問看護を受け、一度も病院に入院することもなく住み慣れた家で最期まで過ごすことができた。この叔父の例は、住宅や同居家族、地域の在宅医療、在宅介護の条件が恵まれていたからこそできたことで、在宅で最期までというのは実はなかなか難しい。

誰しも「可能な限り、住み慣れた自宅や地域で最期まで」という気持ちは持っている。しかし同時に、「家族に迷惑はかけたくない、介護の負担はかけたくはない」という気持ちも強い。また最近、高齢者のみの単身世帯も増えている。それに低所得者世帯の問題もある。

こうした誰もが望みながらも難しさの残る「家族に迷惑や負担をかけずに在宅療養」を実現するものとして、期待が集まっているものが「看多機(かんたき)」と言われる「看護小規模多機能型居宅介護」(以下、看多機)である。

では、「看多機」とはいったいどのようなものであるかをお話しする前に、まずは、在宅療養を困難にしている要因をもう少し詳しく追っていくことにしよう。この要因について公益社団法人日本看護協会(以下、日本看護協会)がヒアリングを実施しているので、それを見てみたい。

■在宅療養を困難にしている要因

日本看護協会は2010年にそれぞれの関係者に対し、在宅療養を困難にしている要因についてヒアリングを実施した。

それによるとまず、病院関係者は以下のように述べている。
「家族が在宅介護で疲れてしまい、レスパイト的な緊急入院が多い」
「在宅で看取れるか家族が不安になり、在宅看取りの家族の意思が揺らいでしまう」
「がんなどで動けなくなるのは最期の数週間だが、その期間を在宅で支えてくれるサービスがない」
「医療機関ではなく、生活の場に、タイムリーに医療や看護が入れる柔軟な仕組みがない」

また、訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所の関係者は以下のように述べている。 「在宅の介護力が足りないために、病院に入院してしまう」 「家族が不安で疲弊してしまい、ターミナル期の2~3週間を在宅で支えきれない」

そして、家族は言う。

「家で看取るというイメージがつかめない」
「在宅療養で困ったことや不安を身近に相談する相手がいない」
「医療依存度の高い人を受け入れてくれるショートステイがない」
「家族も生活のための仕事をもっているので、もちろん在宅介護で見てあげたいのだが、仕事との両立は現状ではムリだ」など。

こうした要因が「在宅は初めからムリ、あるいはこれ以上の在宅はムリ」という限界点となって表れてくる。そこに見えるのは、家族への"支え"の不足や、病院以外に頼れる存在がないという課題だ。

ただ、逆に言えばこうした課題を解決できる、利用者や家族の状況に応じて在宅療養を柔軟に支援する仕組みがあれば、「在宅医療の限界点」も引き上げることもできるに違いない。

そのための柔軟なサービスの一つとして、今、注目されているのが「看護小規模多機能型居宅介護」いわゆる「看多機」である。

■看多機とは?

看多機とは、上記のような「在宅療養の限界点」を引き上げるために、多様な在宅療養サービスを一つの事業所で一体的に継続的に提供するための仕組みだ。「看護」「多機能」「居宅介護」という言葉を含んだその名称そのままに、訪問看護から訪問介護、通所介護に至るまで、様々な在宅療養サービスを提供する。

看多機はもともと、2010年の社会保障審議会介護保険部会において提案された以下のサービスの考え方が元となっている。「訪問看護、訪問介護、通所、宿泊、相談等の機能を一体的に提供できるサービス」が必要とされたため、これまでの「訪問看護」と「小規模多機能型居宅介護」を合わせたサービスとして提案された(図表1)。

「小規模多機能型居宅介護」とは、介護保険制度における地域密着型介護サービスの一つで、自宅で生活する要介護者が、「通所介護」(デイサービス、通い)を中心とする介護サービスのほか、本人の希望や心身の状態に応じて、「訪問介護」や「短期入所療養介護」(ショートステイ、泊まり)を組み合わせて利用できるサービスのことである。「小規模多機能型居宅介護」1事業所あたりの要介護者の登録数は、29名以下とされている。

図表1201611_19_01.png

つまり、これまでバラバラであった各在宅療養サービスをまとめ、一つの事業所ですべての対応ができるようにするための形が、この看多機なのである。

「訪問看護」や「訪問介護」、「通所介護」はこれまで、一日の限られた時間の「点」だけを支援するサービスであった。これを同一事業所にまとめることで、これまで「点」だったサービスを「連続的、継続的なサービス」として継ぎ目なく細やかに提供することができるのだ。しかも、看護師や介護職の目が行き届く同一事務所内で「通所介護」や「宿泊」が提供される安心感も大きい。さらには、家族や本人の療養上の不安や疑問の「相談」にも、看護師が対応するサービスを加えることもできる。

■看多機を活用するメリット

看多機には、登録した利用者に対し、一つの事業所が24時間365日、「通所介護」でも、「宿泊」でも、「訪問介護」でも、「訪問看護」でも、状況に応じて柔軟なサービス提供ができることで、他の在宅療養サービスにはないメリットも生まれる。

例えば、こんな利用の仕方ができる。週に3回通所している利用者の場合、通所しない日には訪問サービスを利用するということもできる。

また、「病状の悪化で入院したが、退院直後に在宅に戻っても医療処置があるため自宅では不安」という場合は、「宿泊」サービスを利用して医療処置を行いながら、時期を見て自宅での療養へ戻すこともできる。この場合も、看護師が事業所内にいることで医療処置のスムーズな提供が可能であり、安心にもつながる。「宿泊」が可能なことで、自宅で療養している利用者の家族のレスパイトにも柔軟に対応できる。

複数の在宅療養サービスを、顔なじみの担当者がいる一つの事業所の中で連続して受けられることで、看多機は「認知症の人にもやさしい」サービスともなっている。

認知症の人が、「あちこちの事業所の通所や訪問介護を受けて担当者が変わると、担当者になじめず、サービス拒否をする」といった場合も多い。看多機であればこうした場合であっても、顔なじみの担当者がそのままサービスを提供したり、そうでなくとも事業所の中にいたりするため、認知症の人が安心できる環境を提供できる。もちろん、認知症の人以外にとっても顔なじみの担当者から続けてサービスを受けられるという安心感は大きい。

利用料金についても看多機には安心感がある。利用料金は時間あたり、回数あたりといったものではなく、1ヶ月の定額制となっている。そのため、介護費用が膨らみすぎるという心配もない。デイサービスのような通所時間の制限もないため、利用者にとっては必要な時に必要なサービスを、費用を気にせず活用できるという利点がある。

さて、「在宅医療の限界点」を引き上げるものとして期待を集めている看多機について、その概念やメリットをご紹介した。看多機が、在宅療養の利用者にとって必要なサービスを取り揃えた、使い勝手のよさそうなモデルであることがご理解いただけたと思う。

次回は、この制度誕生の経緯を振り返りつつ、今後の推進に向けた現状の課題などを見ていきたい。