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訪問看護の未来

連載コラム20:看護と介護を一体的に提供する看多機(後編)

■看多機制度の経緯

前回は、在宅療養を困難にしている要因を解消するために誕生した「看護小規模多機能型居宅介護」(看多機)について、その概要を振り返り、メリットを解説した。

後編となる今回は、看多機の制度が設立した経緯を振り返るとともに、看多機をさらに推進させるために開催されている事業者交流会についてご紹介しよう。

まずは、看多機の制度成立の経緯を見ていこう。もともと看多機は、前回も触れたように、2010年の社会保障審議会介護保険部会の提案を受けて、2012年の改正介護保険法で始まった「複合型サービス」が元になっている。

複合型サービスとは「小規模多機能型居宅介護」と「訪問看護」の組み合わせサービスのことだ。「小規模多機能型居宅介護」は、前回説明したように、要介護者が施設に通ってくるデイサービスと呼ばれる「通所介護」を中心に、必要に応じて介護職が訪問する「訪問介護」、そして「宿泊」を組み合わせたサービスのことである。

この小規模多機能居宅介護サービスではこれまで、医療ニーズの高い利用者へのケアについては別事業所である訪問看護事業所に依頼しなければならなかった。その場合、連携・引継ぎは行われるとはいえ、利用者にとってはまったく新しい事業所とスタッフが登場することになり、気持ちの上での負担も大きい。

そこで、両者を一体化して同一事業所で行えるようにしたのが「複合型サービス」である。これまでの小規模多機能型居宅介護では受けることのできなかった医療ニーズの高い要介護者に対し、看護と介護両方のサービスを同一事業所の顔なじみスタッフから提供できるようにした(図表2)

図表2201611_20_01.png

■2015年介護報酬改定と看多機の誕生

この複合型サービスが原型となって、2015年の介護報酬改定の際、「看護小規模多機能型居宅介護(看多機)」となった。

その背景には、日本看護協会の強力な後押しがあった。日本看護協会による「複合型サービス事業所」の調査の結果、複合型サービスは医療依存度の高い利用者あるいは状態が不安定な利用者に柔軟に対応できるサービスであることが判明したのだ。この調査結果を受け、日本看護協会は、介護給付費分科会をはじめとした様々な場で看多機の普及を提唱してきた。

こうした努力の結果もあって、2015年の介護報酬改定でそのニーズや重要性が認められ、サービス拡大の方針と新たな加算が新設された。そして名称も「複合型サービス」から「看多機」へと変更された。その時に行われた改定のポイントを図表3にまとめる。

図表3 改定の主なポイント

  • (1)名称の見直し
  • (2)登録定員数の緩和
  • (3)外部評価の効率化
  • (4)総合マネジメント体制強化加算の創設
  • (5)事業開始時支援加算の延長
  • (6)提供される看護の実態に合わせた加算と減算の実施
  • (7)同一建物居住者へのサービス費変更

(1)については、従来名称の「複合型サービス」ではサービス内容がイメージしにくいとの意見から、通い・泊まり・訪問介護を提供する小規模多機能型居宅介護サービスに、訪問看護も提供できるようになったとして名称を「看護小規模多機能型居宅介護(看多機)」と変更した。

(2)の登録定員は、これまで上限が25人(通いは15人、泊まりは9人)だった。しかし調査で、8割以上の事業所が登録定員の上限に達していたことから、登録定員の上限を29人に増やし、1人当たり3平米以上の面積を確保している場合は通いサービスの定員を18人まで認めることとした。

また、(3)の外部評価は、運営推進会議で既に第3者による評価を受けているとの観点から、これまでの「都道府県が指定する外部評価機関において行うサービスの評価を受けなければならない」という規定を廃止し、事業所の全職員が対象の自己評価を実施して運営推進会議にかけるという効率化が図られた。

他にも、一定の基準を満たすと月1000単位の加算ができる総合マネジメント体制強化加算が創設されたり、事業開始後1年未満で登録者が定員の70%以下の事業所では月500単位の加算ができる事業開始時支援加算が2018年3月31日まで延長されたりするなど、事業所開業を促進する改定となっている。

さらに、地域医療介護総合確保基金における看多機事業所への配分基礎単価(補助金)の上限が、3200万円に増額された。東京都の場合、さらに単価をアップして4400万円が上限となっている。

また、看多機事務所が、障害児・者向けにサービスを提供することも可能になった。その場合も29人以下の定員内で、かつ自治体から基準該当の指定を受ける必要があるが、高齢患者以外にも役割が広がったことは、在宅療養での期待度の高さが表れている。

2015年介護報酬改定で拡充された看多機のサービス概要を図表4に示す。

図表4201611_20_02.png

■看多機事業者交流会で出された現状と課題

このように看多機への期待が大きくなる中、日本看護協会は2015年11月に都内で、看多機事業者交流会を開催した。

参加者は、全国から集まった看多機の事業者や開業を目指す看護職など、130人以上を数えた。また、厚生労働省の担当者や市町村の担当者なども集まった。著者もこの交流会に出席したことで、数多くの看多機の実態に触れることができ、初めて知ることができた内容も多かった。(図表5)

図表5201611_20_03.jpg

会の冒頭、日看協常任理事の齋藤訓子氏は、「看多機は非常に期待が寄せられているサービス」と挨拶した。しかし、事業所数は交流会の開かれた時点ではまだ、全国で218カ所と少ないことから、「日本看護協会が提案したサービスであり、生みの親の責任としてもっと事業所開設数を伸ばしたく、交流会を企画した。疑問が解決し開設が進む良い機会となれば」とさらなる発展への期待についても述べていた。

その後、看多機は2016年4月の時点では全国294か所に増えている。その市区町村ごとの開所数を図表6に示す。これによると札幌、横浜の開所数が多いことが判る。

図表6201611_20_04.png

交流会では、厚生労働省老健局老人保健課看護専門官の猿渡央子氏からも、先述の2015年の介護報酬改定によって「複合型サービス」から「看多機」へと名称が変更されたことなど、改定のポイントについての説明があった。そして、「看多機が創設されて3年半経ち、現場の状況に合うよう制度には様々な変更が加えられている」と、その後の動きに触れた上で、「現場の実情を調査して、2018年の同時改定へ向けて、さらに看多機を使いやすいものにしていきたい」と、やはりさらなる発展に向けた意気込みが語られた。

看多機の実践報告も、目白訪問看護ステーションを運営する株式会社リープ(東京都新宿区)代表の細谷恵子氏から発表された。登壇した細谷氏は、実際に看多機を運営する立場から、「看多機の開設にあたっては、自治体の様々な補助金に助けられた」と述べながらも、看多機が新しいサービスであるため建築の基準が定まっておらず、特に高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)や東京都の独自基準で、特別養護老人ホーム並みの基準を求められるなど「事業所建設に対しての障壁が大きかった」と苦労を語った。

その他の発言では、利用者からの依頼に関する内容で、在宅で訪問サービスを利用している利用者から、排便後に看護師へと介助を求める電話があったという体験談を踏まえ、「訪問」「通い」「泊まり」のサービスを柔軟に利用できる利点がかえって「利用者が『何でもあり』と誤解し、スタッフが疲弊する」状況を生んでいるとの発言もあった。

また、看多機ならではの人材マネジメントの課題として、訪問看護に慣れている看護師でも、「通い」など利用者と日中に多くの時間を過ごすサービスでは戸惑うことがあるといったことも語られた。

看多機の保険点数に関しては、もともと2012年の改正介護保険法で始まった「複合型サービス」の小規模多機能型居宅介護について、その時点で点数配分が低かったものが、看多機になり若干の加算がついたものの、それでも「まだまだ経営的には運営が大変」という意見も出された。参考までに看多機の1月あたりの報酬イメージを、図表7として付記する。

図表7201611_20_05.png

■おわりに

今回は、看多機の現状と課題について振り返り、それをご紹介してきた。確かに現状だけを見れば、運営上の苦労も多い。しかし、その一方で看多機に対する地域のニーズは高く、少しずつだが着実にその開設数を伸ばしている。

上述の看多機事業者交流会での発言を紹介した細谷氏がそうであるように、訪問看護ステーションが看多機を併設するケースも少なくない。訪問介護やデイサービスの事業者からも看多機設立者は出ているが、看護師の採用や活用の面からも、訪問看護からの看多機参入がもっともスムーズであろう。既に訪問看護を運営している事業者は、これからさらに増えるであろう看多機もその戦略として考える必要があるだろう。

私が定期的に研修を開催しているインキュベクス株式会社の関連事業所にも、看多機ではないが「住まい」と「介護」のサービスを提供している事業所がある。ここでは「要介護5」の利用者が「要介護2」になって退所するという現象もあるという。

こうした『在宅の限界を高める』働きを看多機でもさらに大きくしていく必要があるだろう。規模ではあるが、在宅での療養が必要な人からのニーズに応えることができるなど大きな潜在力を秘め、そして地域の期待も背負った看多機を、2018年同時改定では、さらに後押ししていきたいと考えている。