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訪問看護の未来

連載コラム21:ケア付き高齢者住宅と訪問看護(前編)

■はじめに

地域包括ケアシステムとは、一言でいえば「住まいを中心として、そこに暮らす高齢者に医療・介護・予防・生活支援をパッケージで提供するシステム」といえる。この地域包括ケアシステムの中核をなすのが「住宅」である。住宅の場なくして地域包括ケアを利用者に送り届けることはできない。

さて20世紀は若者中心の救命、完全治癒を目指す病院中心の時代だった。しかし、21世紀は高齢者の生活を支える医療、その中心も患者が暮らす居宅が中心へと移り変わっている。「ときどき病院、もっぱら在宅」が時代の合言葉である。 このため今回は高齢者のケア付き住宅、特にサービス付き高齢者住宅の課題について見ていこう。

■デンマークのケア付き高齢者住宅

2015年の9月上旬、デンマークの高齢者ケア付き住宅を、山崎摩耶元衆議院議員と視察する機会があった。人口550万人、九州ほどの国土のヨーロッパの小国デンマークは、消費税率25%など国民負担率が高いにもかかわらず、国民満足度が高い国として知られている。

デンマークでは1970年代、日本の特別養護老人ホームに相当するプライエムの大規模化と施設数増加により、財政圧迫と、そのケアの質低下が問題となっていた。このため1988年に高齢者・障害者住宅法を改正し、それまでのプライエム(特別養護老人ホーム)の新規建築の凍結と、プライエボーリ(ケア付き高齢者住宅)の建設という一大政策転換を打ち出すことになった。

新たなプライエボーリ(ケア付き高齢者住宅)では、プライエム(特別養護老人ホーム)の居室の床面積が20平方メートルであったところを倍増して、40~60平方メートルまで拡大し、居住性を高めた上でケアについても充実を図ることとした。

我々がデンマークで訪れたのは、首都コペンハーゲンに隣接する港町のドラワー市(人口1.4万人、高齢化率23%)のプライエボーリだった(図1)。これを紹介しよう。

このプライエボーリは、全部で117戸ある2階建ての公設賃貸住宅で、中庭には花壇のある明るい作りのテラスハウスだった。家賃は利用者の収入にもよるが、日本円でおよそ月額8万円から14万円。部屋面積は先述したように40~60平方メートルで、リビングと寝室に分けられている。

117戸ある居室のうち、5戸が手術直後などの短期滞在用、13戸がリハビリ専用、10戸が認知症専用とのことだった。短期滞在用の居室は、病院の在院日数が4日と極端に短いデンマークならではの事情を反映して、退院直後のケアを必要とする住民のための受け入れ施設である。

このプライエボーリの職員数は150人で、10人の看護師、5人のリハビリセラピスト、認知症コーデイネーターやヘルパー、事務職よりなる。プライエボーリの運営経費は年間10億円、その80%が人件費とのことだった。

デンマークの医療は英国と同じように税方式で、薬の自己負担分以外は無料が原則であるが、プライエボーリでの疾患対応は、まずホームドクターが当たり、必要に応じて入院紹介がなされる手順になっているという。

こうしたデンマークの例のように、先進各国では現在、従来の特別養護老人施設を中心としたものからケア付き住宅を中心としたものへと、政策の転換を図っている。

図1 デンマークで訪問したドラワー市のプライエボーリ201612_21_01.png

40~60平方メートルの居室スペースがあり、花壇のある中庭の付いたデンマークのプライエボーリと比べると、日本のサービス付き高齢者向け住宅は、いかにも手狭だ。日本の場合は、居室面積25平方メートル、共用スペースを有する場合には18平方メートルとなっている。使い慣れた家具や絵を持ち込み、ゆったりと中庭を眺めて暮らすデンマークのプライエボーリがうらやましくも思えた。

■日本のケア付き高齢者住宅と他の先進国との比較

では、ここからは我が国の高齢者のケア付き住宅の事情を追っていこう。まずは日本のケア付き高齢者住宅の課題と、他の先進国との比較から見ていきたい。

日本で大きな課題となっているのは、ケア付き高齢者住宅が先進各国と比較しても圧倒的に不足しているという現状だ。人口の多い団塊の世代の高齢化が進みつつある今、要介護、要医療の高齢者が増え、しかも単身世帯、夫婦のみ世帯も増える中で、不足が深刻なケア付き高齢者住宅の整備を早急に進める必要が生じている。

確かに我が国は、介護保険による老人保健施設、特別養護老人ホームなどの介護施設の整備に関しては他の先進各国と比べてそん色ない。しかし、ケア付き高齢者住宅に限って言えば、きわめて貧弱だ。

例えば、65歳以上人口に対するケア付き高齢者住宅の定員数の割合を国別に比較すると、英国8.0%、スウェーデン6.5%、デンマーク8.1%、米国5%に対して、日本はわずか0.9%だ(図2)。これには諸外国と日本の高齢者住宅に関する政策の違いが影響している。

図2201612_21_02.png

冒頭に挙げたデンマークの例を見ていこう。もともと高齢者のケアにおいて住宅の重要性を意識した政策をとっていたデンマークであったが、前述のとおり以前は施設を主体としていたものを、財政面での課題によって政策転換を行った。1988年に打ち出された高齢者・障害者住宅法がそれである。

ここから冒頭に紹介したようなケアの充実したプライエボーリが各地に作られるようになっていくのだが、こうした高齢者ケアの主役は2つ存在している。1つは地方自治体であり、もう1つは高齢者自身である。

医療政策を転換する以前のデンマークではケアの担い手も国であった。これを権限委譲して、現在は税も、それを用いたケアも、それぞれの自治体が主体となって動いている。これによって国民の税や福祉への納得感は非常に高く、意識も高い状態が作れている。

また、高齢者自身がケアの政策に積極参加していることもデンマークの特徴だ。政策転換にあたって国会内に高齢者の意見を代弁する委員会が作られたほか、現在も各自治体には高齢者自身が選挙で選んだ高齢者委員会が存在し、政策策定に高齢者の声を反映している。

こうしてデンマークでは高齢者自身も含んだボトムアップにより、高齢者のケアや住宅の政策が作られた。

■日本のケア付き高齢者住宅、サービス付き高齢者住宅

一方、日本のケア付き高齢者住宅の政策を主導したのは省庁であった。しかもそれが、省庁を跨いだ複雑な経緯をたどったことで、ある意味日本らしい縦割り行政の弊害を受けてしまう。

縦割り行政の話は、また改めて本稿の後編でご紹介するとして、まずは日本版ケア付き高齢者住宅であるサービス付き高齢者住宅(以下、「サ高住」)が誕生する場面から触れたい。

もともと日本における高齢者向け住宅の政策を担っていたのは、厚生労働省ではなく国土交通省であった。厚生労働省でも特別養護老人ホームなどの老人福祉施設については自治体とともに政策を進めていたが、これは施設であって住宅ではなかった。つまり、旧来の日本の政策は、高齢者向けの住宅が国交省、施設が厚労省という区分で進んできたのである。

住宅については、サ高住が登場する以前にも、国交省が所管する「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」によって、「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」といった高齢者向けの住宅の整備が進められていた。

ここに転機が訪れたのは、2011年である。日本でも遅れ馳せながら、現状0.9%のケア付き高齢者住宅割合を2020年までに3~5%までに増加させるという方針を、この年の3月、国土交通省が「住生活基本計画」に盛り込む形で策定した。これに基づいて高齢者住まい法が2011年10月に改正され、国交省と厚生省の共管のもと、サ高住の登場となった(図3)。そして国交省は、サ高住を2020年までに60万戸まで増やす計画を示している。

図3201612_21_03.png

サ高住の登録基準には、原則25平方メートル以上の床面積に、バリアフリー構造といった設備基準がある。また、安否確認・生活相談サービスをすべての入居者に提供することとなっている。このサ高住は、税法上の優遇措置や国土交通省の補助金政策が追い風となり、2011年以来、一挙に急増して2015年2月末現在でその戸数はなんと17.6万戸を超えた(図4)。

図4 サービス付き高齢者住宅年次推移201612_21_04.png

今回は、高齢者の「住まい」について、サービス付き高齢者向け住宅を中心として、その数が大幅に増えたところまでを見てきた。冒頭でご紹介したデンマークのプライエボーリ(ケア付き高齢者住宅)のように、日本のサ高住は順調に発展していったのか?その後のサ高住が辿った道のりと、現在の様子については、また次回、ご紹介するとしよう。