訪問看護ステーション ケアーズ

ケアーズパートナー専用ページログイン

訪問看護の未来

連載コラム22:ケア付き高齢者住宅と訪問看護(後編)

■サ高住の環境と集まる期待

さあ、今回もケア付き高齢者住宅について見ていこう。前回はまず、デンマークの広くゆったりとしたケア付き高齢者住宅、プライエボーリをご紹介し、次に日本のサービス付き高齢者住宅(サ高住)が誕生した場面と、その増加の状況までを追ってきた。

ここからは、さらにこのサ高住が機能を充実させ期待を集めていった様子と、その後、縦割り行政の弊害の中で逆風に晒されていった事実をご紹介する。

さて、サ高住がすべての入居者に提供するとされるサービスは、前述したように安否確認と生活相談のサービスである。それ以外に入居者が必要とするケアサービスは、外部の事業所から外付けで供給することになる。一般住宅を訪問介護サービスや訪問看護サービスが訪問するのと同じように、サ高住にもこうしたサービスが訪問し、ケアを提供している。

このサ高住があっという間に17万戸までに広がった。その理由は、サ高住がただの住宅ではなく、こうした外部サービスを利用することで特別養護老人ホームなみのケアが期待できることにあった。

ケアを提供するのが外部事業者だけではなく、サ高住に併設された事業所で提供されるならばさらに便利で効率が良い。例えば、2階から上は居室だが、1階に訪問看護ステーション、訪問介護事業所、デイサービスが備わり、訪問看護師やヘルパーが階段やエレベーターですぐに訪問できるというのは迅速で心強い。利用者側からの相談なども同一建物の中ならば手近で負担が少ない。同じ24時間の見守りでも、別の建物と同じ建物内では安心感が格段に違うだろう。

しかも、10.6平方メートルしかない特別養護老人ホームと違って、居室は18~25平方メートル以上と広く、各部屋にトイレが必ずあって共同ではない。それまでの自宅から広さがさほど変わらない、ワンルームマンション並みのゆとりある居住空間に住まうことができる。

このようにゆったりとした広い居室で、様々なケアが迅速に得られる環境を備えたサ高住は、そのまま日本型の「ケア付き住宅」として拡大していきそうな雰囲気を持っており、まさにデンマークのプライエボーリが実現するかのように思えた。

当初は国交省の住宅施策を受け継いで始まったサ高住だが、厚労省との共同所管となったことで、ケアの部分でもさらに強化が図られるのではという期待があった。

■同一建物減算

ところが、良いことは長く続かなかった。こうしたサ高住に在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションを併設して、同じ建物内の患者を診療することに対して、厚労省から「待った」がかかった。それが同一建物減算の導入だ。両省の共管となったことがむしろ、両省の考え方の違いを浮き彫りにしていった。

事の発端は、マスコミでも取り上げられた「患者紹介ビジネス問題」や、外来通院可能な患者に対しても訪問診療を行うなどの「在宅医療不適切事例」が明らかになったことにある。

こうした報道や世論を受けて、厚労省による調査が行われ、その結果、2013年8月には以下のような不適切事例が中央社会保険医療協議会(中医協)に示され、物議を醸した。

(1)医科診療所併設のサ高住では「月2回の訪問診療を受けること」が入居条件となっていた。
 (2)同じ理事長が経営する軽費老人ホームと医科診療所では、入居者33人中31人に月2回の訪問診療が行われていた。
 (3)特養の入居患者紹介の仲介を受けた歯科診療所は、特養入居者100人中55人に訪問診療を実施し紹介料として「診療報酬の70%から経費を控除した額」を仲介者に支払っていた。

このような経緯を背景に、2014年の診療報酬改定で「同一建物減算」が導入された。同一建物減算とは、在宅患者訪問診療料、在宅時医学総合管理料、特定施設入居時等医学総合管理料による「同一建物で同一日の複数訪問」について大幅な減算を行うものだ。

例えば、当時、在宅療養支援病院・支援診療所が、サ高住のような集合住宅に、月2回以上の定期的な訪問診療を行うことで算定できた、5000点の在宅時医学総合管理料というものがあった。これが2014年の改定によって、同一建物においては5000点から1200点と、一挙に4分の1以下の大減算となってしまったのだ。現在ではこの管理料自体が名称も異なるまったく別の内容に変わっている。

この他、有料老人ホームなどの特定施設入居時等医学総合管理料においても同様の減算が行われ、訪問診療だけでなく訪問看護、訪問リハでも同様の同一建物減算が行われた。

この時点でここまでの大規模で広範囲な減算が行われるとは誰も考えておらず、関係者は皆一様に大きなショックを受けた。

確かに以前より、この同一建物での複数訪問については、いずれ減算されるのではないかという噂は流れていた。というのも、この5000点の在宅時医学総合管理料は、月2回の訪問という条件だけで算定でき、訪問1回あたりの患者数や診療時間等を問わなかったため、過剰診療につながる経済的誘因となりかねないという指摘がなされていたからだ。

私も当時、港区で診療所の先生の訪問診療に時々同行することがあった。高輪に建ち並ぶ高級マンションの一角へと訪問診療に行った時の話だが、ギャッジベッドに寝ているお年寄りを訪問して、血圧を測って世間話をして、ものの10分もしないうちに次のマンションの患者宅に訪問する様子をみて、「この訪問を月2回で5万円はおいしいな~」と正直思ったものだった。

もちろん、厚労省とて在宅医療やその利用者憎しでこのような同一建物減算を設けたわけではなく、不適切事例に対するペナルテイー的な対応としての意図であろう。しかし、このような在宅医療すべて一律の規制を行ったことで、むしろ、良質な在宅医療の首までも絞めかねない結果となった。

こうした同一建物減算の負の側面は国会でも取り上げられ、2016年度の診療報酬改定では、一部が緩和された。

■サ高住への逆風

厚生労働省からの追い打ちは、さらに2015年の介護報酬改定でも続いた。なんとサ高住や住宅型有料老人ホームの建物内や敷地内に介護サービス事務所を併設する場合、その介護報酬が10%も減額となったのだ。

なぜここまで減額したのか?厚労省は「不適切事例があったから」「もともと同一建物でアクセスがたやすく労働量が少ないから」と説明する。

しかし実は、厚労省の本音は「囲い込み」の抑制にある。「サービス利用を条件に入居契約を結び、利用者の自己負担額の限界まで不必要なサービスを投入する」ケースなど、「囲い込み」で事業者側が有利になり、不正を働く可能性が増えるというわけだ。そこには、サ高住と診療所、訪問看護、介護サービスの事業者が併設あるいは同一法人だと「不正行為に走りがち」という厚労省の思い込みが根底にある。

サ高住がこのように、政策によって激しく翻弄されたのは、高齢者向けの住宅供給を進めたい国交省と、保険制度上の不正行為を厳しく断じたい厚生省というスタンスが大きく異なる2つの省庁が、サ高住という1つの制度を共管したことにより、縦割り行政の弊害としてスタンスの違いがそのまま現場に直撃した結果だと言えよう。

実は、「囲い込み」に対する両省のスタンスは、サ高住制度の当初からかけ離れていた。

国交省による図解説明では、サ高住の1階に介護事業所や診療所が描かれていた(図3)。ところが厚労省は、介護保険スタート直後から住宅型有料老人ホームに併設された訪問介護事業所を「囲い込み」と決めつけ、「取り締まり」を行ってきていた。

両省のこうしたスタンスの違いは、サ高住の現場を混乱・疲弊させるだけでなく、その普及にも影を落としている。サ高住を2020年には60万棟までに増やすという目標を、国交省は掲げているが、この状況では目標達成も危ういのではないかと言われている。

図3(再掲)201612_21_03.png

さらに、サ高住急増の動きに神経を尖らせているのは、厚労省だけではない。大都市近郊の自治体もまた、この動きを懸念している。もともと大都市に住まう高齢者が、その近郊のサ高住に入居するため転入してくると、転入先の「自治体の介護保険財政が圧迫される」というのだ。

サ高住には「住所地特例」を適用できないことが、この懸念を生んでいる。通常、被保険者が施設入居などのために住所を移しても、「住所地特例」があるために、保険給付負担は前の自治体がそのまま負う。このため施設入居者の増加で、転入先の財政が圧迫されることはないのだ。しかし、この特例はサ高住には適用されないため、大都市近郊の自治体は、サ高住の建設が高齢者の大規模流入の呼び水となり、財政負担増につながるのではないかと不安を募らせている。

■それでも大きいサ高住への期待と、拠点型サ高住の登場

このように、厚労省や自治体からは向かい風の反応が出てしまっているサ高住では、事業者側からの事業についての不安も目立ってきている。

同一建物減算以外にも、「入居者獲得に苦戦している」、「職員確保で苦労している」、「入居者の支援サービスにどこまでかかわればよいのか悩む」、「入居者間のトラブルで困っている」などの悩みが聞こえてくる。

その他、「高齢化がピークアウトする2025年以降もサ高住の需要が続くのか?」、「診療報酬や介護報酬に頼った運営には、先の同一建物減算にもみられたように制度リスクがあるのでは?」、「住宅の品質やサービスの品質を維持できるのか?」、「そもそも年金暮らしの高齢者が、医療・介護の自己負担分とサ高住の賃料負担に耐えられるのか?」などなど、数多くの不安や懸念の声が上がっている。

だが、いかに逆風が吹こうとも、サ高住に対する利用者のニーズが減ったり、満たされたりしたわけではない。

やはり、同じ建物内に介護サービスの事業所があれば、この上なく便利であるし、雨風の強い日でも、道路でデイサービスの送迎車を待つ必要がないのは嬉しい。エレベーターや階段でデイルームに直行でき、ヘルパーとの連絡もたやすいというのは、とても魅力的なのだ。こうした同じ建物内に様々な介護サービスを設けたサ高住の魅力とニーズは、衰えることなく今もなお、輝きを保ち続けている。

国交省はサ高住のさらなる進化を目指している。2016年4月に同省の「サ高住の整備等のあり方に関する検討会」(座長、髙橋紘士(一財)高齢者住宅財団理事長、前国際医療福祉大学教授)の報告書で新施策を打ち出した。

これは、サ高住を地域住民への介護・看護の拠点とするべく、「24時間対応の定期巡回・随時対応サービスや小規模多機能型居宅介護事業所、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションをサ高住に併設する」というものだ。これによって「地域へのサービス供給の機能」を持ったサ高住は、新たに「拠点型サ高住」と命名された。

私は、実際にこうした拠点型サ高住の原型となった事例を、千葉県柏市の豊四季台団地で見たことがある。団地の一角を再開発して作られたサ高住で、2階以上は居室で、1階に在宅療養支援診療所、訪問看護ステーション、ヘルパーステーションが入居した「拠点型サ高住」だ。同所を見学して思ったのは、まさに地域包括ケアシステムのテーマパーク、コンパクト型地域包括ケアサ高住という印象だった。

国交省と厚労省のスタンスの違いは、完全に解消されたわけではない。しかし、国交省はこうした介護・医療サービス拠点を居住者から地域に広げる「オープン化」を目指し、さらにサ高住を展開・発展させようとしている。

■おわりに

サービス付き高齢者住宅(サ高住)は、脱病院化時代の先進国トレンドの住宅政策として鳴り物入りで導入された。

しかし、今回お伝えしてきたとおり、急速な増加とともにその影の部分も明らかになり、省庁間の考え方・施策の違いも浮き彫りとなった。そして実際に、2014年診療報酬改定や2015年介護報酬改定における同一建物減算や敷地内事業所減額に代表されるサ高住への牽制だ。これによってサ高住だけでなく、訪問看護ステーションもあおりを受けて、サ高住や特定施設(介護付き有料老人ホーム)への訪問看護において診療報酬、介護報酬の両面から影響が出た。

だが、高齢者向けの住宅ニーズは大きく、住宅施策の推進は待ったなしだ。冒頭で述べたデンマークのプライエボーリ(ケア付き高齢者住宅)のように、看護ケアを併設した大規模な高齢者向け住宅は、特に都市部において必要不可欠となってきている。

例えば、サ高住以外にもこうしたケアを充実させた高齢者向け住宅が、ニーズの受け皿となる形で多数誕生している。小規模で費用を抑えたものが多く出ていることは、安い費用の住宅が求められていることを示唆している。無許可の老人ホームなどが増えている現実は、高齢者の住宅事情の改善を急がなければならないことを意味している。

私が定期的に研修を開催しているインキュベクス株式会社でも、小規模で価格を抑えた有料老人ホームの開業支援を提供している。インキュベクスはこれまで訪問看護の開業運営を支援してきたために、住宅と看護ケアの両方を提供するモデルの好例になるのではないかと期待している。

高齢者向けの住宅を提供する事業者だけでなく、訪問看護やその他の介護事業者も一丸となって、国土交通省が提案する「拠点型サ高住」の後押しをぜひしたいものだ。

参考文献
国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会」報告書(座長、髙橋紘士(一財)
高齢者住宅財団理事長、前国際医療福祉大学教授)
(URL)http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house07_hh_000120.html