連載コラム3:未来志向の訪問看護①
~オランダの訪問看護~ビュートゾルフ~

連載コラム3:未来志向の訪問看護①~オランダの訪問看護~ビュートゾルフ~

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム3:未来志向の訪問看護①
~オランダの訪問看護~ビュートゾルフ~

■オランダ発、世界に名立たる在宅ケア、ビュートゾルフ

昨年9月、東京芝にあるオランダ大使館を初めて訪れた。大使館は都心とは思えないほどの鬱蒼とした木々の中に建つコロニアル風な建物で、そのバルコニーから見た庭園も見事だった。

大使館主催の催しに参加したのだが、それは大使も出席したレセプションでの興味深い話題で幕を開けた。その話題こそが今回のテーマである「ビュートゾルフ(buurtzorg)」である。

ビュートゾルフとはオランダ語で、「地域ケア」のことである。ただ、ここで言うビュートゾルフは訪問看護・介護、リハビリの機能を持った、オランダの国内シェア率60%以上を誇る非営利の在宅ケア組織のことである。

2007年に1チーム、4人のナースで起業した組織は、たった7年のあいだに約750チーム(約8,000人)が活躍する一大組織へと急成長を遂げる。2014年現在、ビュートゾルフはオランダにおいて、年間7万人の在宅患者をケアしているという(図1)

ビュートゾルフが他の在宅ケア事業者と大きく異なるのは、機能別に分業することなくチームでトータルケアを実践していること、そしてビュートゾルフのそれぞれのチームに大きな裁量権が与えられていて、自律したチームであることにある。このためビュートゾルフは他の在宅ケア組織より大幅な運営コストの削減に成功しているという。

■画一的な在宅ケアへの不満からビュートゾルフは生まれた

さて、オランダでビュートゾルフがこのように急成長したワケは何だろう。その背景には、それまでの在宅ケアに関する医療従事者や利用者の不満が背景にあった。

オランダでも1980年代までは、村落などの地域では住民に対し、少人数のチームが予防や看護、介護を行う地域に密着したトータルケアが存在していた。ところが1990年代に入ると、在宅ケアの市場化の圧力が強まり、地域に寄り添っていた在宅ケア組織や福祉団体、病院などが統合され大規模化した。利用者のアセスメントも全国で統一された画一的な基準が導入され、個々を考慮したものではなくなった。そしてケアの評価も成果や質ではなく、看護・介護・リハビリサービスをどれだけ提供したかによる出来高払いが普及した。その結果、それまでの地域ぐるみのケアは分断され縮小してしまった。

利用者は分断されて継続性のないケアに対して不満をもち、また、組織の一部として画一化された働きを求められた看護師をはじめとする専門職も、自律性とプロフェッショナリズムを欠いた自らの仕事に不満を募らせていった。そして看護師の在宅ケアからの離職も相次いだ。

ビュートゾルフはこうした不満と失望の中に出現し、利用者や看護師から圧倒的な支持を持って迎えられたというワケだ。

■自立しすべてをこなすチーム、小さな本部組織

では詳しくビュートゾルフを見て行こう。ビュートゾルフでは1チームが最大12人の地域ナースと呼ばれるスタッフ達で構成されている(図2)。このチームは看護師が7割を占め、看護師中心の構成となっている。そして看護師の3割以上が学士レベルという専門職集団だ。そしてそのほかのチームメンバーには介護職やリハビリ職がいる。

ビュートゾルフでは、人口約1万人圏内の約40~60人の利用者に対し、訪問看護・介護、ケアマネジメント、リハビリ、予防といった総合的なケアを提供する。またビュートゾルフのチームは、先述したように極めて自立性が高く、ケアプランの作成を含めた利用者サービスのすべてを、この1つのチームで実行する。さらに看護師の採用、教育、収支管理、他組織との連携やそれに伴う調整業務などに至るまで、すべてをこのチームレベルで行う。

このため「バックオフィス」と呼ばれる本部組織はあることはあるが、バックオフィスが行うのはケア料金の請求、従業員の給与支払い、財務諸表の作成のみで、人事部門も財務部門もない。バックオフィスにはなんと45人のスタッフと15人のコーチしかいない。これだけの人員で全オランダの750チーム、8000人のスタッフを支えているのだから、驚きだ。

■フラットな組織がやりがいと満足度を生み出す

そしてさらに驚くべき点は、ビュートゾルフのチームには管理者も事務職もいないということだ。つまり上下のヒエラルキーがなく全員が対等で、ベテランも若手も関係なく意見を言い合うことができる。このように組織をフラットにしている背景には、各スタッフの能力・職業倫理に対する信頼や、一人ひとりにリーダーシップを発揮してもらう目的があるという。

そんなビュートゾルフはさまざまな年齢・疾患・障害を持った人に全人的なトータルケアを提供している。その結果、看護師はやりがいを持って働くことができ、利用者からも高い満足度を得ることができている。

実際にビュートゾルフは2011年、2012年、2014年の最優秀雇用者賞を受賞している。また研究者によると、ビュートゾルフの利用者満足度は他の在宅ケア組織と比較しても高く、2010年にはもっとも高いクライアント満足度「9.0」を獲得して、患者団体、高齢者団体からも支持されているという。
次回はビュートゾルフが実践している取り組みを掘り下げて見てみたいと思う。

参考文献 Jos de Blok Buurtzorg :Better care for Lower cost December 2010 上記キーワード検索による閲覧日 2015年10月 

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