連載コラム27:精神科医療計画と精神科訪問看護(前編)

連載コラム27:精神科医療計画と精神科訪問看護(前編)

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム27:精神科医療計画と精神科訪問看護(前編)

■はじめに

来年は医療計画見直しの年だ。医療計画とは都道府県が作成する医療提供体制の基本計画である。これまで医療計画は5年に一度見直されてきた。次の見直しが来年2018年である。

この医療計画の見直しにあたって、国は昨年、厚労省医政局に「医療計画見直し検討会」を発足させて、議論を重ねてきた。この検討会の議論を受けて、国は「医療計画見直しの指針」を作成、その指針を各都道府県に対してこの3月末にも発出する予定だ。

医療計画はこの国の指針をベースに、都道府県が二次医療圏ごとの病床整備計画とともに疾病ごと、事業ごとの計画を示すことになっている。疾病にはがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患、事業には救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療、在宅医療等その他が含まれている。

今回はこの医療計画のうち精神疾患に関する医療計画の課題と、精神科訪問看護の役割について見て行こう。実は筆者も最近、一部精神科に関連する認知症のテーマで、NHKスペシャルに出演した。その中で筆者は「精神病院に認知症の方を隔離するのは間違いです」とコメントしたのだが、認知症の方以外にも多数の入院患者を抱えてきた日本の精神科が、どのように変わりつつあるのか、このコラムで見て行こう。

■精神病床の現状

さて、我が国の精神病床数は33万床であり、先進各国の中でも人口当たりの精神病床数は世界一だ。世界全体の精神病床数の2割を占めているとまで言われる精神病床大国が日本である(図表1)。

また、その在院日数も300日と、先進各国の20日以下に比べて極端に長い(図表2)。

しかし、歴史を振り返れば、今とは逆に先進各国の人口当たりの精神病床数が日本の3~4倍もある時期があった。1960年代ごろの話である。

そこから先進各国と日本は、まったく逆の道を歩むことになった。先進各国は1970年代から90年代にかけて精神病床数を急速に絞り込み、患者の地域移行を促し
た。しかし、日本はそうした世界のトレンドとは正反対の精神病床数を増加させる道を歩んだ(図表1)。この背景には1964年の米国の駐日大使ライシャワー氏が統合失調症の患者に刺されたことなどをきっかけに始まった、精神病患者の隔離収容政策が影を落としている。

図表1

図表2

■精神科病床改革

こうした諸外国のトレンドの逆をたどる状況に、厚労省も手をこまねいてばかりいたわけではない。まず2002年12月、厚生労働省の社会保障審議会障害者部会精神障害分会が、「今後の精神保健医療福祉施策について」において、「今後10年のうちに『受け入れ条件が整えば退院可能』な7.2万人の退院・社会復帰を目指す」ことを提言した。結果は、2002年から2014年で精神病床1.8万床、入院患者数3.6万人が減少した。

次に2004年9月には厚生労働省の精神福祉対策本部が「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下、「改革ビジョン」)を公表した。「改革ビジョン」では、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本方策を推進するため、国民の意識の変革、立ち後れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を今後10年にわたって進めると提言した。さらに2013年からスタートした第6次医療計画では精神疾患が5番目の医療計画対象疾患として加えられ、医療計画においても精神科病床の機能分化と連携の検討が進むことになる。

■精神疾患の医療計画見直し

さて、冒頭の医療計画見直し検討会では、2018年からスタートする第7次医療計画における精神疾患の医療提供体制について、以下の3点を挙げている。①長期入院精神障害者の地域移行、②精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築、③多様な精神疾患等への対応。これをそれぞれ詳しく見て行こう。

①長期入院精神障害者の地域移行

先に述べたように我が国の精神科病床の在院日数が先進各国と比べて極端に長い。この在院日数の内訳を2008年の精神科病床の入院患者動態で見てみよう。

2008年時点で、精神科病院への年間の新入院患者は37.8万人、そのうち入院から3か月未満で退院するのは22万人(58%)、そして1年未満に退院するのは33.1万人(88%)であった。しかし、1年以上入院を継続する患者が2008年では4.7万人(12%)いた。そしてその時点で1年以上入院の患者数は、それまでの累積を含めると20.7万人で、病床数33万床の63%を占めていた。こうした長期入院患者の中には、なんと20年以上の長期入院患者も2割近く存在していた。

なぜ1年以上も入院する長期入院患者(認知症を除く)が発生するのだろう。この中には精神科治療に抵抗する、いわゆる「重度かつ慢性」という一群の患者がいることがあげられる。こうした「重度かつ慢性」の患者発生割合が2015年の厚生労働科学研究(安西班)の研究成果より明らかになった。「重度かつ慢性」患者は、1年以上の長期入院患者のうち6割を占めている。これは、逆にいうと残り4割は地域移行が可能な患者であることも示している。

以上から精神科入院患者の患者動態は以下のようにまとめることができる。

入院から3カ月未満の患者(急性期)、3か月から1年未満の患者(回復期)、1年以上の長期入院患者(慢性期)、そして長期入院患者は「重度かつ慢性期」患者とそれ以外の地域移行が可能な患者に分けられる(図表3)。
図表3

こうした患者の病期別の退院率(残存率)に基づく入院需要(患者数)推計と、地域移行に伴う基盤整備量を考慮して、精神病床の基準病床数を以下の式のもとに算定することになった。「(2020年度末の入院需要〈患者数〉+流入入院患者―流出入院患者)÷病床利用率」(図表4)。

図表4

なお、精神病床に関する医療計画は、障害福祉計画との整合性をとって作成する。次期医療計画は2018年スタートし、6年間続く。一方、障害福祉計画は2018年より2020年までの3年間である。このためまず2020年まですなわち次期医療計画の中間年までの目標を設定し、さらに地域医療構想の目標年の2025年へ向けての長期目標も合わせて定めることとなった。

②精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築

精神障害者が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労)が包括的に確保された地域包括ケアシステムの構築を目指すこととなった。そしてこうした基盤整備のために、圏域ごとの保健・医療・福祉関係者による「協議の場」を通じて、精神科医療機関、一般医療機関、地域援助事業者、市町村などが重層的に連携する支援体制を構築することとなった。

なお「圏域」は市町村の日常生活圏、障害保健福祉圏域(広域市町村圏)、二次医療圏を基本とした精神医療圏、都道府県の3層構造となっている。

③多様な精神疾患等への対応

2018年にスタートする第七次医療計画では、以下のように多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制の構築へ向けた、それぞれの医療機能を明確化することとなった。

多様な精神疾患とは統合失調症、認知症、児童・思春期精神疾患、精神科救急、身体合併症、自殺未遂、うつ、PTSD、依存症、てんかん、高次脳機能障害、摂食障害、災害医療、医療観察。

これらに対して、都道府県拠点機能、地域連携拠点機能、地域精神科医療提供機能が階層化される。

こうした多様な精神疾患等ごとの拠点機能に関する医療機能の要件は、都道府県ごとに設置される協議の場を通じ、地域の実情を勘案して個別に設定され、医療計画に明記することとされた。

今回は、精神科医療計画と精神科訪問看護の中で、精神科の現状を振り返るところから始め、精神科医療計画の見直しまでの流れを追ってきた。諸外国の中で独特の歩みを進めてきた日本の精神化医療がどのようい改革を目指したかがご理解いただけたと思う。
次回は今回の続きで、いよいよ精神科訪問看護について迫ってみたい。

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