連載コラム28:精神科医療計画と精神科訪問看護(後編)

連載コラム28:精神科医療計画と精神科訪問看護(後編)

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム28:精神科医療計画と精神科訪問看護(後編)

■精神科訪問看護の役割

前回は日本の精神化医療の流れを追いかけ、精神改良計画の見直しの場面までを見てきた。諸外国に比べ病床数が著しく多く、長期入院患者の数も多かった日本の精神化医療がどのようにその課題に向き合ってきたをご紹介した。

その解決策の一つとしては、ここまでで述べたように、今後は多様な精神疾患を地域包括ケアシステムの中で支えていくことが目指されている。その担い手の一つが精神科訪問看護である。

今回はそうした精神科訪問看護について見て行こう。

まず、精神科訪問看護の7つの役割をご紹介する。

①再発・再入院の防止、②患者の自立支援、③生活支援・生活リズムの調整、④社会資源活用支援・社会復帰支援、⑤服薬支援、⑥コミュニケーションによる病状観察、⑦地域精神医療連携、以上の7つが挙げられている。

①再発・再入院の防止

精神疾患患者の中には、退院後に外来受診をしっかりと受けない患者も多い。例えば統合失調症で症状が重い患者の中には、幻聴・幻覚がひどく外出もままならい患者も多い。他にも外出が怖い、人に会うのが怖いなど、いろんな事情から外出できない患者が多い。このため症状が悪化し、外来受診ができないため更なる症状の増悪と、悪循環を繰り返し、再発・再入院ということもある。こうした患者に定期的に在宅訪問し、内服管理の支援や、再発・再入院の防止と在院日数を減らす働きをするのが、精神科訪問看護の役割の一つだ。

②患者の自立支援

訪問看護の目的の一つに、患者の自立支援がある。精神科も同様だ。精神科における自立支援には以下がある。服薬管理の自立、ADL(日常生活動作)とともに、買い物に外出することができる、金銭管理ができるなど、IADL(機能的日常生活動作)の自立が特に重要となる。

③生活支援・生活リズムの調整

「夜眠れない」、「日中眠気がある」などの主訴は、多くの精神科患者が抱える問題だ。不眠傾向が持続すると不穏状態となりやすく、症状も増悪する。生活リズムが整わない場合や、日常生活(衣食住の場面)において不都合が生じている場合の支援、相談を行う。

④社会資源活用、社会復帰支援

社会資源とは、利用者がニーズを充足し、問題を解決するために活用される各種の制度・施設・機関・設備・資金・物質・法律・情報・集団等のことだ。精神化訪問看護は、そういった社会資源と患者の架け橋となる。その為、看護師、作業療法士、精神保健福祉士などの職種を問わず、地域における様々なフォーマル、インフォーマルな社会サービスを熟知しておく必要がある。

⑤服薬支援

患者が決まった時間に服薬出来るための支援や、副作用の観察・早期発見などを行う。精神疾患者において、「薬を飲むこと」「飲み続けること」が、症状の安定と生活の質を高めるために最良の方法である。自己判断で服薬中止をしないよう、密な援助が必要だ。 服薬中断は、精神疾患に特有な「病識の低さ」にもよるが「副作用」によることも多い。体重増加、口渇感、倦怠感など精神科薬の副作用から生じることも多い。こうした副作用について観察し、主治医と連絡をとりながら服薬支援を行う。

⑥コミュニケーションによる病状観察

精神科訪問看護では、特別な医療措置を行うというケースは少なく、むしろ患者とのコミュニケーションが中心である。コミュニケーションを通して、患者状態に変化がないかを確認する。
患者の中には家族や社会から孤立しがちになりがちな患者も多い。それが症状を悪化させる要因になっていることがある。精神科訪問看護の対象は患者本人だけでなく、同居している家族も支援の対象となる。訪問看護で患者本人と家族の間を取り持ち、双方が良好な関係を築けるよう医療者視点から助言することが大事になる。

⑦精神科医療連携

最近は精神科訪問看護師が「相談支援員」として、介護保険サービスにおけるケアマネージャー的な役割を担っている場合も多い。障害福祉サービス等を利用していない場合であれば、精神疾患者における在宅医療では「訪問看護師」が中心になって、その患者を支援することも多い。その為、主治医、医療機関との連携だけでなく、様々な職種と連携するための「連携のかなめ」としての役割が期待されている。多職種連携が叫ばれる中、精神科に限らず、「連携のかなめ」として訪問看護師に寄せられる期待は大きい。

■精神科訪問看護の現状

では、こうした役割を担う精神科訪問看護の現状を見て行こう。

居宅で精神科訪問看護を受けている利用者数は2011年現在で2万人を突破して増え続けている(図表5)。また、訪問看護を実施している精神科病院は精神科病院の8割を占め、訪問看護ステーションの6割が精神科訪問看護を行うなど、その提供施設も年々増え続けている。その取扱い疾患は、統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害が75%、気分(感情)障害が10%、精神作用物質による精神および行動障害が4%となっている(図表6)。

図表5

図表6

■精神科訪問看護の診療報酬の仕組み

次に、精神科訪問看護の診療報酬の仕組みについて見て行こう。

精神科訪問看護サービスを利用するには、まず本人の同意に基づく契約と主治医の指示書が必要だ。ただし、介護保険で訪問看護を利用するには内科医の指示書で構わないが、医療保険で精神科訪問看護を利用するには精神科を標ぼうする病院やクリニックの医師に指示書を出してもらう必要がある。一方で、精神保健福祉手帳の申請や障害程度区分の認定は必要ない。

また患者が医療保険で利用する場合は、自立支援医療制度を利用すると自己負担分が軽減される。この制度は各都道府県の指定を受けた医療機関での通院による精神科疾患の治療について、治療費の一部を公費負担する制度だ。訪問看護事業所もこの指定を受ければ制度の適応となる。
次に精神科訪問看護の診療報酬について見て行こう(図表7)。図表7の「精神科訪問看護基本療養費」というのは、保健師、看護師、准看護師又は作業療法士が指定訪問看護を行うことを指す。

人員の要件としては以下が挙げられる。①精神科を標ぼうする保険医療機関において訪問看護の経験を1年以上有する者、②精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験を1年以上有する者、③精神保健福祉センターまたは保健所当における精神保健に関する業務の経験を1年以上有する者、④専門機関等が主催する精神保健に関する研修を終了している者。

また、図表7の精神科特別訪問看護指示書は主治医から交付を受け、訪問看護ステーションから訪問看護を行った場合に1カ月に1回、算定できる。また精神病院から退院後3カ月間の週5日の訪問については、退院後の状態変化リスクも高いことから主治医の指示に基づき算定ができる。

精神科訪問看護の利用者は、前述したようにさまざまな背景を持っている患者さんだ。精神科疾患に不安を抱えている。日常生活への適応に不安を抱えている。生活のリズムが整わない。薬がきちんと飲めない。外来通院が途絶えがちになる。家族との関わりが分からない。病気と向き合いながら就労したいなど。こうした幅広い患者に精神科における専門知識や経験のある訪問看護師による向き合ったコミュニケーションによる支援を受けられるのが精神科訪問看護だ。

図表7

■おわりに

以上、2018年から始まる新医療計画の精神科関連項目と精神科訪問看護の概要を見てきた。

精神疾患も医療計画対象疾患である。その医療計画の中で退院後に地域で精神疾患患者を支えていくには精神科訪問看護が必須である。

著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社では「ケアーズ訪問看護ステーション」というブランドを展開し、参入と運営の支援を行っているが、その中でも精神科訪問看護の需要の大きさを重視し、開業当初から精神科の依頼を受けられるように、要件を満たした体制構築を推奨している。ケアーズで開業した訪問看護ステーションのおよそ3割が「精神科訪問看護基本療養費」の算定を受けていると聞く。

今後も新たな医療計画に沿って、更に精神科訪問看護が発展していくことを期待したい。

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