連載コラム29:低所得高齢者の住まいの現状と課題(前編)

連載コラム29:低所得高齢者の住まいの現状と課題(前編)

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム29:低所得高齢者の住まいの現状と課題(前編)

■はじめに

単身の高齢者や、夫婦二人暮らしの高齢者世帯が増えている。このため退院後、自宅で家族の介護が得られず、自宅に戻れないという要介護高齢者も増えている。
また、高齢者世帯の中でも年収200万円以下という低所得者高齢者の退院後の住まいが課題だ。

今回は低所得高齢者の住まい問題を見ていこう。住まいとその住まい方は地域包括ケアシステムの中でも中心課題の一つであるからだ。

著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社でも、高齢者の住まいの需要を受けて、年金の範囲で暮らせる月額9万5千円の住宅型有料老人ホームにケアを外付けした「介護の王国」の開業運営支援を提供している。

こうした介護現場における住まいの問題を、その背景や既存の居住系サービスを含めて見ていこう。

■月額負担額15万円が退院先の分かれ道

一般財団法人高齢者住宅財団(高橋紘士理事長)の昨年度の研究事業「医療・介護ニーズがある高齢者等の地域居住のあり方に関する調査研究事業」に参加した。
この研究の中で特に興味深かったのが、病院から要介護の高齢患者が退院する時、その退院先は患者が月に負担できる額で決まるという点だった。

月額15万円以上を負担できる比較的恵まれた要介護の退院患者は、サ高住や介護付有料老人ホームを選択する。しかし、負担できる額が15万円、すなわち年収にしておよそ200万円未満であると、患者はやむを得ず自宅を選択するという調査結果だった。

2010年の国民生活基礎調査によると、高齢者世帯の収入が200万円未満の低所得世帯は、高齢者世帯全体の38%を占めている。(図表1)
図表1高齢者世帯の所得(濃い色は世帯年収200万円未満の層)


(資料)厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」より宇都隆一ら作成。

■低所得高齢者が抱く住まいの不安

このように低所得高齢者とそうでない高齢者との格差が広がっている背景の一つには、一人住まいの単身高齢者、夫婦二人住まい高齢者世帯が急増していることが挙げられる。

例えば、単身高齢者世帯数は2010年の466万世帯から2030年には717万世帯、約1.5倍に増加する。そして要介護3以上の要介護者数は、2015年の224万人から2030年には343万人と、これも約1.5倍に増加する。

こうした単身、あるいは高齢者世帯の要介護高齢者が退院をする時、最も不安なのが、退院後に頼れる人がいない、疾病の悪化や急変時に発見してくれる人、ケアをしてくれる人が近くにいないという不安だ。

そして、孤立死への不安がさらにこれに重なる。このため、退院後の住まいとして、ケア付きや見守りのある居住系サービスを希望する高齢者は少なくない。
しかし、低所得であるがゆえに退院後の行き場がないという、前述の問題が壁となって立ち塞がる高齢者も多い。

東京都社会福祉協議会の調査によれば、2010年9月の1か月間で、高齢者の退院に関する相談件数のうち、退院後の行き場を見つけられないという件数は、病院で37.8% 、地域包括支援センターで38.5%、居宅介護支援事業所で47.4%となっている。

この中には、タイミングや場所などの問題で、希望の住まいを見つけられないという高齢者もいるかもしれないが、その多くが負担できる金額がネックとなって行き場所に悩んでいる。

介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅がそれなりに増えているとは言っても、低所得者高齢者にとってこれらの居住系サービスは高嶺の花だ。
こうしたことから、今、低所得者でも負担可能な安価な居宅系サービスが求められている。

■高齢者向けの居住系サービス

では、改めて高齢者向けの居住系サービスの全体を概観してみよう。

高齢者向け居住系サービスには以下の6種類がある。

①特別養護老人ホーム、②養護老人ホーム、③軽費老人ホーム、④有料老人ホーム、⑤サービス付き高齢者向け住宅、⑥認知症高齢者グループホーム。
図表2にそれぞれの定義、機能を分類した。

まず、設置主体別にみると、地方公共団体等の非営利公的団体と、営利法人の2つのグループに分かれる。前者は①特別養護老人ホーム、②養護老人ホーム、③軽費老人ホームで、後者は④有料老人ホーム、⑤サービス付き高齢者向け住宅、⑥認知症高齢者グループホームとなっている。

基本的性格も、低所得高齢者向けと一般高齢者向け、認知症向けの3種類に分かれる。低所得高齢者向けが①~③で、一般高齢者が④、⑤、認知症向けが⑥だ。

部屋面積で見ると、①、②は10.65平方メートルで、④有料老人ホームは平方メートル(参考値)、⑤サービス付き高齢者住宅は18平方メートルあるいは25平方メートルだ。
件数をみると、⑥認知症グループホームが1万2597件で最も多く、次いで④有料老人ホーム9581件、①特別養護老人ホーム8935件、⑤サービス付き高齢者向け住宅4932件、③軽費老人ホーム2182件、②養護老人ホーム953件の順となっている。

図表2

次に、その伸び率を図表3の定員数で見てみると、伸び率のもっとも高いのは有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、それに続いて特別養護老人ホーム、老人保健施設の順となっている。

図表3

■高齢者向け居住系施設の規制

さて、それぞれの居住系施設の規制の現状を見て行こう。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設、養護老人ホームなどは、国や自治体の総量規制の方針もあって頭打ちだ。

また、2006年4月に行われた介護保険法の改正で、特定施設(介護有料老人ホームやケアハウス)の数も制限されるようになった。特定施設というのは、決められた基準を満たせば施設が提供する介護サービス等が介護保険の適応となる施設のことだ。

上記の介護保険法改正によって、これらの特定施設を制限する自治体が増えてきた。理由は、こうした特定施設が増えると自治体が負担しなければならない介護報酬が増えることになるためだ。

こうした背景によって、施設内で介護人材を抱えて介護サービス提供を行う施設が頭打ちであるのに対して、介護サービスを外付けしているサービス付き高齢者向け住宅や、住宅型有料老人ホームが増加傾向にある。

介護サービスを外付けする施設の扱いは、一般の居宅に住む高齢者が外部サービスを利用するのと同じであり、上記の規制の対象にはならないことからその伸びにつながっている。

今回は、低所得高齢者の住まいの問題について追ってみた。

今回、ご紹介した中では、まず、低所得高齢者の現状について、高齢者自身の不安も含めてご紹介し、そして実際の高齢者向けの居住系サービスにはどのようなものがあるのかをご紹介した。居住系サービス自体は増えているものの、多種多様な種類が存在していることがご理解いただけただろう。それぞれのサービスが課題を抱える上、こうしたサービスの複雑さもまた、課題解決を難しくする要因となっている。

次回は、これら高齢者向けの居住系サービスの中でも、近年の伸びの大きな有料老人ホームと、住まいの問題解決のために提唱されている地域善隣事業についてご紹介していこう。

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