連載コラム30:低所得高齢者の住まいの現状と課題(後編)

連載コラム30:低所得高齢者の住まいの現状と課題(後編)

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム30:低所得高齢者の住まいの現状と課題(後編)

■急増する有料老人ホーム

前回から、高齢者の住まいの問題についてご紹介している。

前回ご紹介した内容は、低所得高齢者が置かれている現状と、そこに横たわる住まいへの不安、そして高齢者向けの居住系サービスが様々ある現状についてお伝えした。

後半となる今回はまず、様々ある高齢者向けの居住系サービスの中でも、有料老人ホームの伸びについて、その件数の比較を見て行こう。

有料老人ホームは2006年の老人福祉法の改正によりその数を急増させる。この年の改正によって定員要件10人が廃止され、また、サービス内容は食事提供のみから、食事提供、介護、家事、健康管理のいずれかを選択できることになった。

このことによりその件数は大幅に増えた。2006年に2104箇所だった有料老人ホーム数は、2014年には9581箇所と、10年弱で4.5倍となった。

さて、有料老人ホームは以下の2種類に分類される。①介護付有料老人ホームと②住宅型有料老人ホームだ。

二つの違いは、①は介護等のサービスを施設内に内包している。一方、②は介護サービス等が外付けである点だ。有料老人ホーム数は現在9581箇所、その内訳は、①介護付有料老人ホームが5100箇所(61%)、②住宅型有料老人ホームが3308箇所(39%)となっている。

■介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームの違い

介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームを比べると、月額負担額が前者は15万を超えるが、後者は13万円程度で済む。しかし、一部屋当たりの平均床面積は前者が22㎡であるの対して後者は18㎡、中には13㎡未満のところも多い。

スプリンクラー設置は両者とも8割程度とのことだ。

最近では、この中でも特に低所得高齢者向きの賃料を抑えた低家賃の住宅型有料老人ホームが注目を集めている。これらの月額負担額は10万円以下と非常に安価だ。

ただ、こうした低家賃の住宅型有料老人ホームには未届けのところも多い。未届有料老人ホームは部屋面積も狭く、スプリンクラー設置比率も低い。また、これ以外にも未届の有料老人ホームには以下のような様々な問題が指摘されることが多い。特定のサービスの利用を強要・誘導する、利用料の一方的な値上げ、広告と実際のサービス内容との乖離など。

確かに、低所得高齢者向けの有料老人ホーム、特に低家賃の住宅型有料老人ホームの需要は急激に伸びていくだろう。こうした中、低家賃とサービスの質、基準順守を鼎立した住宅型有料老人ホームの開発が今後の課題となると言える。

著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社が展開する「介護の王国」も、分類上は住宅型有料老人ホームに当たり、月額負担額も9万5千円と低額だ。これに訪問介護のサービスが外付けで入る。

「介護の王国」では、低家賃とサービスの質、基準順守を鼎立させるため、サービス設計段階から目標コストを設定し、徹底したコスト削減および利益の計算を実施しただけでなく、IoT導入による従業員負担の軽減にも踏み込んでサービスを構築しているという。

■空き家活用の地域善隣事業

それでは最後に、空き家を活用した低所得高齢者向けの住まい対策を見て行こう。

今、人口の減少に伴って空き家が増えている。総務省の調査(2008年)によると、全国には約757万戸の空き家がある。これは住宅全体の13%に当たる。特に東京都は75万戸、大阪府は63万戸と大都市部での空き家が目立つ。

こうした背景を受け、国は空き家を活用した低所得高齢者向けの住まい対策である「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」を予算化し、2014年から始まっている。

このモデル事業の原型となったものが、一般財団法人高齢者住宅財団の「地域善隣事業」である。この地域善隣事業についてご紹介しよう。

地域善隣事業では、地域での居住を継続できない低所得高齢者が対象となる。また地域善隣事業は地域包括ケアシステムの中心課題である「住宅」の問題について、これまではともすれば関係の薄かった地域福祉との連携の中に”解”を求めた新たな試みでもあった。

地域善隣事業は以下の二本柱からなる。

①ハードとしての「住まい」の確保、②ソフトとしての「住まい方」の支援である。
①の「住まい」の確保では、対象者の住まいにふさわしい物件の開拓、家主等との連携、住まいの物件情報の把握、②の「住まい方」の支援では、支援対象者の把握、

支援計画の作成、住まいの入居者同士や地域との互助の醸成、対象者と住まいのマッチング、対象者のニーズに応じた日常生活上支援を行うものであった。

また、上記の地域善隣事業を円滑に推進するため、関係者のネットワーク・協働の場としての「プラットフォーム機能」の構築も併せて推進された。

具体的には、地域における関係者のネットワーク・協力体制の構築、対象者の住まいにふさわしい物件の開拓、物件情報の共有、支援対象者の把握のための情報共有、情報開示当のあり方等、事業の透明性や社会的信頼確保のためのルール作り、寄付の呼びかけなど民間財源確保の活動などの”足場”づくりが行われ、これらを実行する団体へ参加が呼びかけられた。

このプラットフォームに参加する団体としては、社会福祉法人、NPO法人、医療法人やその協同体など事業拠点、地域に根差した活動を行う家主・不動産事業者、医療機関、介護事業所、住民組織、地域包括支援センター等が考えられていた。

こうした地域善隣事業のコンセプトに基づいて、先の低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業が2014年より予算化された。このモデル事業のコンセプトを図表4に示す。

図表4

空き家の活用は、前述のインキュベクスが提供している住宅型有料老人ホーム「介護の王国」でも検討しているようだ。新築のみならず空き家を活用することで、土地の価格が高く、住居系サービスを安価に提供することが難しい都市部でのニーズにも応えていくという。

上記の地域善隣事業のプラットフォームにおいても、家主や不動産事業者の参加が見込まれていたが、そうした方の強い関心やニーズを拾うことが難しい反省があり、「介護の王国」ではそうした空き家や土地を持て余し、有効活用を考えている方が、アパート経営とは雲泥の差となる価値や貢献度を見出せる構造を用意して、参画を促しているという。

<参考文献> ・高橋紘士ら 「医療・介護ニーズがある高齢者等の地域居住のあり方に関する調査研究事業」報告書 平成27年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業

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