連載コラム32:同時改定と医療・介護連携(後編)

連載コラム32:同時改定と医療・介護連携(後編)

国際医療福祉大学大学院
武藤 正樹(むとう まさき)

1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了、医学博士。国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。 1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長、1990年国立療養所村松病院副院長、1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長、1995年国立長野病院副院長、2006年国際医療福祉大学三田病院副院長、国際医療福祉総合研究所長、2009年より現職。


連載コラム32:同時改定と医療・介護連携(後編)

■訪問看護ステーションの課題

前回に引き続き、2018年の診療報酬・介護報酬同時改定と、訪問看護における医療と介護の連携について見ていこう。

前回は、2018年の同時改定に向けた、中医協と介護給付費分科会のメンバーによる「医療と介護の連携に関する意見交換」のテーマとなった看取り、訪問看護等における医療と介護の連携の課題を追ってきた。その中で、看取りの現状と提案、そして、訪問看護の現状と、医療保険・介護保険との関係までが前回解説した部分だ。

今回は、訪問看護ステーションの課題から解説を進めていく。

意見交換では、訪問看護の課題として、厚労省から、
①訪問看護ステーションの事業規模の拡大や病院・診療所が行う訪問看護の拡大、②訪問看護と他のサービスを組み合わせた複合型のサービスの提供の推進、③訪問看護の24時間対応や急変時対応などが挙がった。

この中で、②の複合型サービスの提供の推進について見て行こう。

複合型サービスというのは、小規模多機能型居宅介護と訪問看護を組み合わせたサービスである。これが2015年介護報酬改定によって看護小規模多機能型居宅介護(看多機)へと名称が改められ、再スタートした(図表5)。

看多機は2010年の社会保障審議会介護保険部会において提案された以下のサービスの考え方が元となっている。「訪問看護、訪問介護、通所、宿泊、相談等の機能を一体的に提供できるサービス」が必要ということで、これまでの「訪問看護」と「小規模多機能型居宅介護(訪問介護、通所、宿泊)」を組み合わせた「複合型サービス」として提案された。

図表5

看多機の特徴は、登録した利用者について、24時間365日、「通い」でも、「宿泊」でも、「訪問介護」「訪問看護」でも状況に応じて、一つの事業所から柔軟に提供できるという点だ。

例えば、こんな利用の仕方がある。週に3回通所している利用者の場合、通所しない日には訪問サービスを利用するということもできる。

また、「病状の悪化で入院したが、退院直後に在宅にもどっても医療処置があり自宅では不安」という場合は、「宿泊」サービスを利用して、医療処置を行いながら時期をみて在宅療養へ戻すこともできる。さらに、在宅療養中の患者の家族のレスパイトにも柔軟に対応できる。

その他、認知症の人が、「あちこちの事業所の通所や訪問介護を受けて担当者が変わると、担当者になじめず、サービス拒否をする」といった場合も多い。

こうした場合にも看多機では、同一事業所でいつも同じの顔馴染みの担当者からサービスを受けることができる。このため看多機は「認知症の人にもやさしい」サービスといえる。

気になる利用料金は、1か月の定額制になっているので、利用者にとって介護費用が膨らみ過ぎるという心配もない。デイサービスのような通所時間の制限もないというのが利点の一つだ。

ところが、いいことずくめのようなこの看多機がなかなか伸びない。2012年度から導入され5年になるが、直近で381カ所にとどまる。

理由は、2015年の介護報酬改定で名称がそれまでの複合型サービスから看多機となったことが、まだ広く周知されていないことが挙げられる。

著者も、2015年11月に日本看護協会が主催した看多機事業者交流会に出席して、はじめて看多機の実態を知ることができた。

交流会には、看多機の事業者や看多機開業を目指す看護職など、全国から130人以上が出席した。もっとも課題も少なくなく、出席者からは次のような看多機に対する意見が出されていた。

「看多機の強みである、利用者の事情に合わせて訪問、通い、泊まりのサービスを柔軟に利用できる仕組みはいいのだが、看護師が一人で何役もこなさなければならなく、マネジメントが大変」、「利用者が『何でもあり』と誤解し、スタッフが疲弊する」。「まだまだ経営的には大変、赤字も多い」という意見であった。

日本看護協会の齋藤訓子委員も、看多機については、「事業所自体が伸びていかない。行政の理解が進んでいない現状があると思う」と述べた。次回の同時改定では、この看多機についても、もっと追い風を吹かせたいものだ。

またさらに、療養通所介護事業所(療養デイサービス)の推進の機運も巡ってきている。

看多機が「通い」「宿泊」「訪問介護」「訪問看護」を柔軟に組み合わせたモデルとするならば、療養デイは看護師が配置され、中重度者に対応できるデイサービスである。デイサービスの持つ「預かり機能」はそのままに、中重度者にも対応が可能だ。

この療養デイも訪問看護ステーションへの併設など、訪問看護との相性が良い。実際に著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社においても展開する「ケアーズ訪問看護ステーション」において、療養デイ併設の準備を進めている。

■リハビリテーション

リハビリテーションも訪問看護と同様、医療保険と介護保険の両者が適応になる。

そしてリハビリでは、急性期、回復期、維持期・生活期ごとに、医療保険と介護保険の役割分担が求められている。

急性期・回復期の疾病別リハは医療保険が適応され、維持期・生活期のリハは介護保険が適応されるのが原則だ。しかし、この急性期・回復期から維持期・生活期への医療保険から介護保険への切り替えがなかなか進まない。

維持期・生活期においても依然として医療保険によるリハが混在している。その患者数は3.9万人にも及ぶという。この問題の議論は、診療報酬改定・介護報酬改定のたびに、なんとここ10年にも渡って続いており、決着が着いていないのだ。

図表6

この議論がスタートしたのは、回復期リハに疾患別リハが導入された2006年からだった。

疾病別リハが導入された時点で、「長期間における効果が明確でないリハビリテーション」との指摘から、疾患毎に算定日数上限を設定する疾患別リハと算定日数上限が導入された。これによって脳血管疾患等リハは上限180日、心大血管リハは150日、運動器リハは150日、呼吸器リハは90日のように、算定日数の上限設定がされた。

ところが、これに対して障害者団体や福祉・医療関係者らから「生活力の低下や要介護度の重度化を招く」と大反発がおこり、マスコミも「リハビリ難民」と大々的にキャンペーンを張った。

本来、医療保険でカバーするリハビリから上限日数を過ぎて維持期に移行した場合は、介護保険でカバーすべきというのが厚労省の考え方だ。しかし、改定のたびに、「医療保険での維持期リハビリには一定のニーズがあり、介護保険への移行が難しい」という議論が関係者の間に起こり、医療保険によるリハから維持期の介護保険のリハへの円滑な移行が進まなかった。

とは言え、このような現状を追認していると、いずれ収拾がつかなくなるのは明らかだった。そこで厚労省は、2016年改定では一定の区切りをつけ、なんとか2017年度末までに維持期リハを医療保険から介護保険に移行させるために、要介護被保険者の医療保険のリハについて「目標設定等支援・管理料」を新たに導入したのだった。

上記が、2018年の診療報酬・介護報酬同時改定に係るリハの大きな課題だ。

もっとも、このようにリハビリに目標を設定し、その実現を支援していく「目標設定等支援・管理料」の考え方は、維持期だけに限った話ではない。この枠組みそのものは、急性期・回復期でも同じと考えられる。

このため厚労省は、さらに次の改定における論点として「急性期・回復期リハにおいても目標設定支援の視点に基づくリハビリの推進」を挙げている。
その時、目標となるものは何だろう?

現在の急性期・回復期リハはどちらかというと身体リハに偏っている。このため生活復帰に必要なリハ、たとえば摂食・嚥下リハや排せつリハがおざなりになっており、在宅復帰がなかなか進まない。

こうした背景を踏まえるならば、「高齢入院患者を生活に戻すのがリハビリの目標」と言えるのではないだろうか。

リハビリについては、「医療と介護の連携に関する意見交換」において、全国老人保健施設協会会長の東憲太郎委員から、次のような指摘と意見もあった。

前回の介護報酬改定で、IADL等の向上や、社会参加の実現への働きかけを重視したリハビリを実施することになったが、こうした「活動と参加」の情報は、医療側からほとんど来ないという指摘と、医療・介護の情報共有の項目として、まず「活動と参加」を作るべきという意見だった。

これを受け、厚労省では今後、リハ計画書の様式の見直しなどを検討するという。

また、リハビリと言うと専門職である理学療法士や作業療法士のみが提供するサービスというイメージがあるが、今後はそれだけに限らず、介護職員が提供する「生活リハビリ」による自立支援や生活機能回復の提供が、それぞれの介護サービスで求められていくだろう。

こうした介護現場からのイノベーションによって、維持期・生活期のリハは介護の領域へと移行していくのかもしれない。
著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社においても、準備している住宅型有料老人ホーム「介護の王国」について、自立支援介護を提供する生活機能回復センターのような役割を目指しているという。

■関係者・関係機関の調整・連携

最後の課題は、「関係者・関係機関の調整・連携」である。

医療と介護の連携には、現場レベルでの情報連携が欠かせない。その情報の集約は介護支援専門員(ケアマネージャー)のもとでなされて、一元管理され、そこから必要な関係者へと改めて情報発信されることが望ましい。

しかし、ケアマネージャーを始め、関係者は誰も彼も忙しい。

情報の集約と言ってみても、サービス担当者会議ですらメンバーが一同に集まることができない。とりわけ医師がサービス担当者会議に出席することは難しい。

このため、「医療と介護の連携に関する意見交換」では委員の多くから、「ICTを活用したオンライン会議を認めてはどうか?」との意見が出された。

ICTについては塩崎厚生労働大臣も、2018年度の報酬改定において「ICTを活用した遠隔診療などを評価する」といった方針を示していることから、医療・介護の情報連携においてもその活用が実現する可能性が大きいと言える。

末期がん患者などは状態が変化しやすいにも係らず、適切なサービスが迅速に提供されていないという指摘も意見交換では出された。

意見交換の鈴木邦彦委員も、こうした課題を解決するには、「医師がまず指示したサービスを提供し、あとからケアプラン作成・修正をおこなうという柔軟な仕組み
にすべきではないか」と述べている。

確かに末期がんの患者については、介護サービス提供はそのイメージよりも少ないと言われている。

介護サービスが少ない理由は、介護保険申請そのものが間に合わなかったり、ケアプランを作成しても病態が刻々と変化するので、その修正が間に合わなかったりすることが多いことにあると指摘されている。

「医療と介護の連携に関する意見交換」では、連携の機会の確保について、日本介護支援専門員協会会長の鷲見よしみ委員から、以下のような要望が出された。

「入院当初からケアマネージャーを回診に同行させてほしい」、「入院時に患者の介護保険証を確認して、ケアマネージャーに入院したことを知らせて欲しい」といった、入院当初からの病院とケアマネージャーとの情報連携を強化する要望である。

あるいは、ケアマネージャーの他にも「関係者・関係機関の調整・連携」の役割を担える人材や組織が必要であるかもしれない。

本稿の序盤で、訪問看護による新しい複合型の介護サービス、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)について紹介したが、訪問看護ステーションや訪問看護師が「関係者・関係機関の調整・連携」の役割を一部担っていくことも、効果的な取り組みなのではないだろうか。

著者が本コラムを連載しているインキュベクス株式会社では、著者の定期的なセミナーも開催しているが、加盟している全国の「ケアーズ訪問看護ステーション」の看護師向けに地域連携コーディネーターとして活躍できるような育成のセミナーを開催している。

地域連携を推進する人材が足りず、医療と介護の両方を理解し、橋渡しを行う地域連携コーディネーターとして、訪問看護師は適切な人材の一つなのかもしれない。

■おわりに

以上、2017年の3月22日と4月19日に行われた「医療と介護の連携に関する意見交換」における議論を紹介した。

2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた具体的な議論は、今後、それぞれ中医協総会やその専門組織等、そして社会法相審議会・介護給付費分科会の中で行われる。

これまでに交わされてきた上記のような議論の数々が、同時改定へとどのように反映されていくのかを注視していきたい。

また、いっそう重要になる地域連携において、訪問看護が連携を推進する役割を担っていけるのか。どこまでの推進が可能なのか。そうした連携の推進についても見守ると同時に、人材の育成を進めていきたい。

参考文献
①「第1回医療と介護の連携に関する意見交換」(厚生労働省/平成29年3月22日)
HP
②「第2回医療と介護の連携に関する意見交換」(厚生労働省/平成29年4月19日)
HP

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