「訪問看護師としての源」となった、新人の私にがん末期患者が語ってくれた話

「訪問看護師としての源」となった、新人の私にがん末期患者が語ってくれた話

こんにちは。看護師の渡邉です。

今回は、「私の訪問看護師としての源となっているのかもしれない」と思うエピソードをお話したいと思います。

もう20年以上も前のお話ですし、明るい元気なお話ではありませんが、同じ看護師の方は共感できる部分があるかもしれません。

よかったら読み進めてみてください。

消灯後に話しかけてくる入院患者さまが抱えていた思いとは?

それは、私が看護師免許を取得した新人の頃でした。
今は少なくなりましたが、準夜勤とか深夜勤といった区分があった頃の話です。

準夜勤の消灯後に
「少し話してもいいかな~…」
と、よく話しかけてくる患者さまがいらっしゃいました。

姓でなく下の名前で、私のことを「陽子ちゃん」と呼んでくださる患者さまもいらっしゃり、この患者さまも、その中のお一人でした。

消灯後にその患者さまと話す内容は、ご家族のこと。ペットのこと。
いわゆる世間話のような他愛ない話を、最初はしていました。

しかし、ある日、患者さまはポツリと切り出したのです。
「あのさ……、本当は自分の病気、肝硬変じゃないと思ってるんだ。
でも、先生もほかの看護婦さんも本当のこと言ってくれないんだ……」

その患者さまは、“肝臓がん”でした。
当時は今よりも本人への告知がされていない時代で、本人には“肝硬変”と説明されていたのです。

私は、なんて答えていいかわからず、ただうなずくしかありませんでした。

告知されていない“がん”を悟っていた患者さまの話を聴いて

また私が準夜勤の日、その患者さまはまた、同じようなお話をされました。

私は悩んだ末に、聴いてみることにしました。
「なぜ、そういう風に思うんですか?」

患者さまは一瞬、笑顔を見せると、こんな話をし始めたのです。

ご自宅についての思い。
自宅は自分が好きな場所で、家族が待っている場所で、ペットとのやすらぎの時間を過ごす場所。
そこに戻りたいという思い。

しかし、病状が悪化し、入院が長引いたことで、金銭面での負担が重くなっているということ。

ここまでは、冷静に聴くことができるものでした。
しかし、彼は、新人だった私がびっくりしてしまうような言葉を語りだしたのです。

「陽子ちゃんには話すね……。
本当は“がん”だと思ってるんだ。
そう言って欲しいんだ……」

そんな患者さまからの言葉に、私は二の句が接げませんでしたが、とにかく、患者様の気持ちをきちんと聴かなければと思い、聴き続けました。
患者さまは言葉を続けます。

「がん保険に入っているんだ。診断・話をしてくれたら保険が下りるんだ……」
「そしたら気持ちの整理をして、家族にもたくさん伝えたいことがあるんだ。」

私は、何も言えませんでした。
そしてそのまま、患者さまと消灯したエレベーターホールで一緒に泣いてしまいました。

「あの時、話しておいて良かった」その数日後、ベッドは空に

こんな対応をしてしまって、私は先輩から怒られるのではないかと思いましたが、患者さまから聴いた言葉をそのまま先輩に報告しました。

先輩はただ一言、「ありがとう」と言いました。

主治医とナースとでカンファレンスが開かれ、そこでご家族にこの件をお伝えすることになりました。

しかし、ご家族は本人に告知することを望まず、“がん”であることは伏せられたままでした。

日が経つにつれ、患者さまはさらに動くことが難しくなっていきました。

足はむくみ、腹水は貯まり、車椅子での移動となりました。
「家に帰りたい」
「もう、これ以上家族に心配かけたくない」
と、患者さまは訴えました。

ここに至り、本人に病状が伝えられることになりました。
患者さまは、肝硬変も併発し食道静脈瘤破裂が起きていました。

既に患者さまは話すことも難しくなっていましたが、微笑しながら小さな小さな声で、私にこう言ったのです。
「あの時、陽子ちゃんに話しておいて良かったよ。保険おりるな~」
「家に帰りたかったな~」

……それから数日後、ベッドは、空床になりました。

泣きました。とにかく泣いたことだけを覚えています。

最期に会えなかったことが悔しく、また、他に行動できることがなかったのか、自分で自分に問い続けました。

けれど、時間は私の涙を待ってはくれません。

次の日には、そのベッドへ、また新しい患者さまが来ました。

この患者さまとのやりとりは、あれから20年以上経った今もなお、鮮明に残っています。

そこで強く強く感じた、「患者さまの気持ちをくみ取り、傾聴し、希望に近づけたい」という思い。

それが、私の訪問看護師としての源となっているのかもしれないと、今では思うのです。

皆様の、訪問看護を志すきっかけや、看護観の根底にあるものはどのようなものでしょうか?

私はその後、訪問看護の業務につきましたが、その中でもこのことを度々、鮮明に思い出しました。

長文になりましたが、そんな私の看護師としての根底にある思いが築かれるきっかけとなったエピソードをご紹介しました。

ありがとうございました。

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